本研究は、新規イノシトールリン脂質群(PIPs)である lysoPIPs を同定し、その生理的意義を解明することを目的としている。lysoPIPsは、病態と深く関わりがあるPIPs代謝機構に位置づけられる新たな分子であり、その存在の実証はPIPs代謝系による生体機能調節機構の理解に新たな展開を拓くものと期待される。本研究では、(1) 質量分析によるPIPs 解析技術を用いてlysoPIPsを同定し、(2) PIPs 代謝酵素遺伝子欠損マウスを用いて発癌時におけるlysoPIPsの量的・質的変化を解析した。 (1) lysoPIPs 同定 HEK293T細胞内、マウス組織中にアシル基組成の異なる lysoPIPs 分子種が多数存在することが明らかとなった。更には、イノシトール環のリン酸化数が異なるlysoPIP1、lysoPIP2、lysoPIP3 が存在することが判明した。 (2) lysoPIPs 代謝機構の破綻と発癌 前立腺癌モデルであるPIP3分解酵素前立腺特異的欠損マウスを用いた解析を行い、発癌時に特定のアシル基を有するlysoPIPs のレベルが著しく上昇することを見出した。この知見は、発癌に lysoPIPs 代謝異常が寄与している可能性を強く示唆している。
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