研究課題/領域番号 |
16K20921
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
越後 拓也 秋田大学, 国際資源学研究科, 准教授 (30614036)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 灰長石巨晶 / 島弧マグマ / 揮発性成分 / 塁帯構造 / マグマ混合 / 包有物 |
研究実績の概要 |
今年度は、宮城県西部に位置する南蔵王火山の一部である不忘山に産出する灰長石巨晶の研究を行った。電子線マイクロアナライザ(EPMA-WDS)を用いた分析の結果、不忘山産玄武岩質安山岩に含まれる粒径1cm以上の斜長石斑晶の化学組成はAn92-94%の灰長石に相当するのに対し、粒径が100μmの長柱状斜長石斑晶はAn 56-60%のラブラドライトに相当し、明確に区別できることが分かった。灰長石巨晶の化学組成は中心部から縁辺部に至るまで均質性が高いが、最周辺部 (幅約100-200μmの領域) では、細かい波動累帯構造がみられ、灰長石巨晶の成長末期では、周囲のマグマ組成が周期的に変化したことを示唆している。この累帯構造について、BSE像における明部と暗部の化学組成を分析した結果、前者がAn 83-86%、後者がAn 75-80%であった。東北日本中南部地域の安山岩質火山噴出物は、高温かつ未分化な苦鉄質マグマと分化の進んだ珪長質マグマの混合によるものが多く (Ban & Yamamoto 2002)、今回観察された波動累帯構造もこうしたマグマ混合が複数回繰り返されたことにより形成された可能性が高い。東北日本に代表される沈み込み帯の火成活動で、An成分が90%を越すようなCa-rich斜灰長石が結晶化するには、5wt%前後の高い含水量を持った玄武岩質マグマが必要と考えられている (Takagi et al. 2005)。さらに、本研究で調べたAn92-94%の灰長石巨晶中心部に磁硫鉄鉱と思われるFe-Ni硫化物が多数発見されたことから、灰長石巨晶が結晶化したマグマ溜まり深部の未分化な苦鉄質マグマには、H2OやS等の揮発性成分が多く含まれていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は東北日本に産する灰長石巨晶を研究対象とし、その鉱物化学組成や微細組織、包有物などに関する詳細な研究を行った。その結果、東北日本に産する灰長石も揮発性成分に富む環境下で結晶化したことが示唆され、島弧におけるマグマ溜まり深部には揮発性成分が普遍的に含まれ、灰長石巨晶のような大きな鉱物結晶の成長や融解が活発に起きている可能性が示された。これまで、三宅島などの火山フロントや佐渡島小木半島などの背弧で産する灰長石巨晶の研究を行ってきたが、今年度の東北日本に産する灰長石巨晶に関する知見が加わったことで、日本列島における多様なテクトニックセッティングで産する灰長石巨晶が共通した生成環境を有することが明らかになりつつある。以上の理由から、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において、日本列島各地に産出する灰長石巨晶を研究してきたが、その全てに揮発性成分が大きな斑晶鉱物の形成に関わった形跡が認められている。しかし、実際に灰長石巨晶がマグマ溜まりのどの場所で発生・成長したかは明らかになっていない。今後は、灰長石巨晶の微量元素分析や包有物を利用した生成温度・圧力の推定などを行い、灰長石がマグマ溜まりの深部で成長したのか、天井部に近い場所で地殻成分の混入を受けながら成長したのかを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、フランスのパリで行われたゴールドシュミット会議に参加するための予算(30万円)を計上していたが、試料の分析やデータ解析を優先したため、この会議に参加することが出来なかった。そのため旅費の使用額が計画よりも低くなってしまったのが次年度使用額が生じた理由である。次年度使用額については、国際会議への参加に加え、岩石試料の化学分析を計画よりも多く行い、研究課題の推進に有効活用していく。
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