本年度は、佐渡島産灰長石巨晶に対してレーザーアブレーション型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)による微量元素組成とストロンチウム同位体組成の局所分析を行った。いずれの結果も結晶内部の高い化学的均質性を示し、灰長石が成長した環境は結晶核の形成から1cmを超える自形結晶となるまで、大きな変化はなかったことを示唆する。今回測定した微量元素は、リン(P)、カリウム(K)、スカンジウム(Sc)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)、希土類元素(REE)であるが、いずれも結晶内部のコアからリムに至るまで均質な分布が確認され、灰長石巨晶が析出したマグマは単一の起源を持つことが明らかになった。ストロンチウム同位体組成(87Sr/86Sr)については、結晶内部でコアからリムにかけて6点測定し、結晶内部に包有されている灰長石結晶について6点測定した結果、いずれも0.7028~0.7034の比較的低く、なおかつ狭い範囲に収まることが判明した。このことから、灰長石巨晶を形成したマグマに堆積岩が混入したり、より分化したマグマが混合したりといったプロセスは考えにくく、微量元素組成の結果と整合的な結論が得られた。また、灰長石巨晶に包有される灰長石結晶の形態が丸くなっていることは、小さな結晶が溶けて大きな結晶がより大きく成長するオストワルト熟成(Ostwald ripening)が起きたことを示唆する組織であり、マグマだまりに新しいマグマが連続的に注入されることによって、灰長石結晶が大きく成長した可能性が高い。
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