研究課題/領域番号 |
16K20922
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
福山 繭子 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (40630687)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 流体包有物 / レーザーアブレーション / 誘導結合プラズマ質量分析装置 / 多元素同時分析 / ヒスイ輝石 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、1.レーザーアブレーション(LA)システムと誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、鉱物中に取り込まれた地殻流体(流体包有物)の多元素同時分析法を確立し、2.その分析法を岩石形成に関与した天然の流体包有物に適用することで、岩石を形成する流体の元素運搬能力を明らかにすることを目的としている。 平成28年度は、従来の分析法より迅速な分析を可能とするために、本研究課題で提案する標準溶液を用いた流体包有物分析用標準試料調製法に必要な装置作成を行った。標準溶液を封入した標準試料を支える治具はいくつかの金属素材を用いて試作を行った。また、標準溶液を封入する石英ガラスは、それに含有される微量元素が分析に影響しないように高純度合成石英ガラスを用い、冶具に内接するように成形した。同時に、エキシマレーザーアブレーションシステムと四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置を組み合わせたLA-ICP-MSを用いて、従来から微量元素分析に使用されるガラス標準試料を用いて流体包有物の多元素同時分析法を確立した。この分析法を、関東山地寄居に産するヒスイ輝石石英岩の石英中の10μm程度の大きさの流体包有物に対して適用を試みた。その結果、沈み込み帯においてヒスイ輝石石英岩を形成する流体はLiやB、またRb等のLILE元素だけでなくNb等のHFSE元素に富むという化学的特徴を得ることができた。流体包有物の分析法は国際学会で報告を行ない、ヒスイ輝石石英岩中の流体包有物の化学組成はその特徴をまとめて国際誌に投稿を行った。一方で、この天然の流体包有物分析の事例を通して、ガラス標準試料を用いた場合の流体包有物のLA-ICP-MS分析の定量下限が明らかとなった。本研究課題で提案する標準試料は、ガラス標準試料に比べ定量下限が低くなることが期待される。次年度は提案する標準試料の有効性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はLA-ICP-MSによる流体包有物の多元素同時分析を確立した。この分析法を用いて天然の岩石試料中の流体包有物を分析し、分析結果の評価を行った。この結果については学術誌に投稿を行った。また、流体包有物用標準試料調製法に必要な装置の作成を行った。その際、いくつか試作を繰り返したため、本年度は試料調製法の評価までは至らなかったが、装置を改良できたと考えており、全体として概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通じて、流体包有物のLA-ICP-MS分析を天然の試料に適用する際の問題点がより明確になった。流体包有物のLA-ICP-MS分析では、定量値を計算する際に、事前に冷却加熱ステージを用いて冷却することで氷の凝固点降下温度から推定した塩濃度のNaを内標準元素として用いることが一般に行われている。しかし、この場合、Naを含有する鉱物中の流体包有物の分析は困難である。そこでNaを含有する鉱物に対してはClを内標準元素として用いることが考えられるが、適当なClの標準試料はない。この問題点も、提案する溶液標準試料は解決できると期待できる。今後、本年度に行ったガラス標準試料を用いた場合の分析法と比較することで、本研究課題で提案する流体包有物用の溶液標準試料の有効性を評価していく。
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