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2017 年度 実施状況報告書

言語接触論・通言語学的観点から捉えた日本語の形成における漢文訓読の役割の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 16K20923
研究機関山形大学

研究代表者

ジスク マシュー・ヨセフ  山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (70631761)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード日本語史 / 漢文訓読 / 訓点資料 / グロッシング / グロス資料 / 言語接触 / 意味借用 / 借用形式
研究実績の概要

本年度は日本の訓点資料における借用形式の調査を続けると同時に、ヨーロッパに渡り、現地の研究機関に勤めるグロス資料研究者と情報交換を行った。訓点資料における借用形式の例として、和語「のる」「のす」を挙げ、これらの語が本来「乗り物の上または中に位置[する/させる]」という義しか持たなかったが、漢文訓読において「載」字の訓として定着することにより、「記載[される/する]」義を借用したことを明らかにした。意味借用の例として、以前に「写」字から「書写する」義を借用した「うつす」と、「著」字から「著述する」義を借用した「あらわす」を調査しているが、意味借用はこのような漢字伝来以前において未発達であった書記行為等の意味領域において起こりやすいと結論付け、機関誌『訓点語と訓点資料』で本調査の成果を公表した。また、一般向けの概説書『漢字』(日本語ライブラリー、朝倉書店)においてこれまでの字義・意味借用研究をまとめて公表した。
以上の訓点資料調査に加え、8月末から9月上旬にかけ、ゴールウェイ(アイルランド)とパリで各一周間ほど滞在し、アイルランド国立大学ゴールウェイ校とフランス国立科学研究センター(CNRS)に勤めるアイルランド語とラテン語のグロス資料研究者と情報交換を行いつつ、両者の比較研究をテーマにした論文集の企画を立てた。また、パリを訪れた際に、International Conference on the History of the Language Sciences 14(ICHoLS 14)で漢字を媒介とした意味借用の類型について発表した。
これらの研究活動に加え、昨年から始めた『史記桃源抄』の電子テキスト化も本年度引き続き行い、全5冊の内、昨年度完成した第1巻に加え、第2~3巻及び第4~5巻の約半分ずつ(約50万字)を電子化し、来年度中には全5冊の電子化が完成する見込みである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画調書には平成29年度中に次の三つの仕事に従事すると述べた。
①調査:訓点資料の調査に専念しながら、一度ヨーロッパに渡り、グロス資料の現地調査を行う。
②分析:上記の訓点資料とグロス資料調査の結果をもとに訓読とグロッシングの言語変化への影響を比較検討する。
③コーパス作成:『史記桃源抄』の電子化を進め、本年度中に初校正を完了する。
この内、①は計画通りに行えた。意味借用を中心に訓点資料調査を進め、その成果を雑誌論文や概説書、国際学会発表等という形で公表した。8月末から9月上旬にかけて、ゴールウェイ(アイルランド)及びパリにグロス資料調査に赴き、実際の資料を見るほか、現地の研究者と意見交換を盛んに行い、今後の調査に役立つ多くの助言をもらった。②についてはヨーロッパで得た調査結果や研究者の助言をもとに検討を始め、平成30年度中に国際学会発表または論文の形で調査結果を公表する予定である。③については、『史記桃源抄』の初校正は完了しなかったものの、テキストの約5分の4が電子化でき、平成30年度早期には完了する見込みである。

今後の研究の推進方策

研究計画調書では研究期間の最終年度となる平成30年度にグロス資料調査に専念すると記載したが、訓点資料とグロス資料の比較検討を行うためには訓点資料の調査も同時に進め、借用形式の用例をさらに増やしていく必要があると思われる。特に平成28年度の調査で提案した、字訓の選定プロセスにあたって重要な役割を果たした基準字(reference character)についてさらに追究したいと考えている。そして、現在編集中である比較グロッシング論文集において基準字の役割についての論文を投稿する予定である。また、ICHoLS 14で企画が立てられたもう一つの論文集には漢字・漢文訓読を媒介とした意味借用の類型についての論文を投稿する予定である。これらの現象について英語で論文を公表することにより、漢文訓読が日本語の形成に及ぼした影響をヨーロッパのグロス資料研究者にも知らせることができ、訓読とグロッシングの比較研究のための良い題材になることを期待している。
このほか、英語論文において訓点資料から引用する際の記述方法と省略記号について5月の訓点語学会及び6月に行われるアイルランド国立大学ゴールウェイ校での比較グロッシング・ワークショップで発表する予定である。現在、日本語による訓点資料の記述方法がある程度定まっているものの、英語論文における同様な基準がないため、比較研究を行う上で大きな妨げとなっている。このような記述方法の基準を作ることで今後の訓読・グロッシング比較研究の促進に貢献したいと考えている。
このような調査・比較研究を進めると同時に、「中古・中世漢字仮名交じり文データベース」の構築を続け、平成30年度内に『史記桃源抄』の電子化を完了するとともに、これまでに電子化したテキストの再校正を行う予定である。研究期間内には本データベースを多くの研究者が利用できるようにインターネット上で一般公開する。

備考

Academia.eduには平成29年度中に行った学会発表及び公表した一部の論文を掲載している。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] アイルランド国立大学ゴールウェイ校(NUI Galway)(アイルランド)

    • 国名
      アイルランド
    • 外国機関名
      アイルランド国立大学ゴールウェイ校(NUI Galway)
  • [国際共同研究] フランス国立科学研究センター(CNRS)(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      フランス国立科学研究センター(CNRS)
  • [雑誌論文] Middle Chinese Loan Translations and Derivations in Japanese2018

    • 著者名/発表者名
      Zisk, Matthew
    • 雑誌名

      Japanese/Korean Linguistics

      巻: 24 ページ: 315-329

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] 和語の書記行為表現「のる」「のす」の成立をめぐって―漢字を媒介とした意味借用の観点から―2017

    • 著者名/発表者名
      ジスク マシュー
    • 雑誌名

      訓点語と訓点資料

      巻: 139 ページ: 28-52

    • 査読あり
  • [学会発表] What Do Kanji Represent: A Reevaluation of the Term 'Logogram'2018

    • 著者名/発表者名
      Zisk, Matthew
    • 学会等名
      International Association of Japanese Studies 319th Meeting
    • 招待講演
  • [学会発表] Three Types of Semantic Influence from Chinese through Kundoku Glossing on the Japanese Language2017

    • 著者名/発表者名
      Zisk, Matthew
    • 学会等名
      14th International Conference on the History of the Linguistic Sciences
    • 国際学会
  • [図書] 漢字(日本語ライブラリー、第4章「義から見た漢字」pp. 73-96を執筆)2017

    • 著者名/発表者名
      沖森卓也、笹原宏之、鳩野恵介、吉川雅之、尾山慎、ジスク マシュー、吉本一、清水政明
    • 総ページ数
      192
    • 出版者
      朝倉書店
    • ISBN
      4254516177
  • [備考] Academia.edu

    • URL

      https://yamagata-u.academia.edu/MatthewZisk

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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