研究実績の概要 |
本年度はプロジェクト期間中の成果をまとめると同時に、日本の訓点資料、韓国の口訣資料、ヨーロッパのグロス資料の比較研究を促進するための記述規範を定めた。本規範はこれまでに英語による本格的な研究がほとんど為されてこなかった訓点資料および口訣資料の用例を英語で記述するためのもので、日本の訓点語学会で発表する他、韓国の口訣学会およびアイルランド国立大学ゴールウェイ校で行われた比較グロッシング・ワークショップ「Glossing cultural change: Comparative perspectives on manuscript annotation, c. 600-1200 CE」で発表し、広く好評を博した。 この他、平安時代初期加点の西大寺本『金光明最勝王経』における借用転成(漢語の影響で本来とは異なる品詞に派生/転換した語)と借用統語(漢語の影響を受けた統語形式)を調査し、東北大学で行われた「第3回日本語と近隣言語における文法化ワークショップ」でその成果を発表した。本プロジェクトで行った訓点資料の調査は主に意味借用に注目したが、今回、意味借用以外の形式についても詳しく取り上げることができたのはひとつの大きな成果であると言える。プロジェクト期間中にあげた成果は今一冊の著書にまとめ、2020年頃の刊行を目指している。 本年度の12月には2016年度より始めた『史記桃源抄』(全5冊)の電子テキスト化をようやく完了し、現在ネットで全文検索システムをデザインしている。近日中にはJSPS特別研究員奨励費11J07278および科研費25870077の助成金で電子テキスト化した『雑談集』『三国伝記』『毛詩抄』等の資料とともに「中古・中世漢字仮名交じり文コーパス」の形でネット上で一般公開する予定である。
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