研究課題/領域番号 |
16K20927
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
山崎 大 茨城大学, 大学教育センター, 准教授 (90531822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 原初磁場 / weak lensing effect |
研究実績の概要 |
原初磁場とX粒子および光子冷却の効果を同時にビッグバン元素合成に考慮すればリチウム問題を矛盾なしに解決できる複合ビッグバン元素合成モデルが可能となる。 ヘリウム量や相対論的粒子エネルギー密度(光子、ニュートリノ、暗黒輻射等のエネルギー密度の合計。また粒子ではないが磁場のエネルギー密度も含まれる)は、宇宙の晴れ上がり前後の宇宙流体の音響振動に影響を与える。原初磁場も電磁流体の効果を通して、宇宙流体の音速を押し上げ、ポテンシャルの時間進化を鈍化させる。原初磁場のエネルギー密度を含む相対論的粒子エネルギー密度は、ビッグバン元素合成を決める要素の一つであり、ヘリウム量はビッグバン元素合成モデルに依存する。故に、宇宙の晴れ上がり時代の情報を内包する、宇宙背景放射や物質密度場の観測結果から制限した、原初磁場、相対論的エネルギー密度、およびヘリウム量と、複合ビッグバン元素合成モデルから算出される対応するパラメータを比較することで、多角的に理論モデルを検証できる。 これらを考慮して、物理的正確性の高い結果を得るために、原初磁場のエネルギー密度を考慮した理論モデルがどの程度、他の宇宙論パラメータ制限に影響するか調べた。 特に 今年度は、物質密度場とそれをソースとするweak lensing effect に対する原初磁場の影響を調査した。原初磁場のエネルギー密度を考慮していない従来の理論モデルを使って原初地場の影響を制限するには、銀河団スケール以下の角度スケール以下で高精度の観測データが必要になる。現在においてそのスケールで必要な精度は得られていない。一方、正しく原初磁場のエネルギー密度を考慮したモデルは、銀河団より大きい角度スケールで影響が大きく、比較的精度の高い観測データを使用できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
観測データの更新が相次ぎ、それにあわせてパラメータ制限のためのプログラム更新に時間を割いたことと、申請した研究予算より大幅に減額されたため、必要となる計算機を十分そろえることが出来ず、計算時間が予定より長くなったため。
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今後の研究の推進方策 |
原初磁場とX粒子および光子冷却の効果を同時にビッグバン元素合成に考慮すればリチウム問題を矛盾なしに解決できる。一方、先行研究は、光子の冷却率を固定した限定的なモデルであった。光子の冷却率を変えるとバリオン光子比が変わり、元素合成の各々の反応率を再計算する必要がある。この計算には、計算機の性能や並列率にも依存するが、数分から数十分の時間が必要である。一般に、宇宙論パラメータを制限する際は、数百万回以上の計算回数が必要で、反応率をその度に再計算していては現実的な時間で結果が出せない。 当研究は、事前に反応率のテーブルを光子の冷却率毎に用意し、再計算の時間ロスを無くし、今まで計算時間の制約で出来なかった、光子の冷却率をフリーパラメータにしたパラメータ制限を行う。そして、理論計算と観測で制限されている軽元素組成を比較して、リチウム問題が解決できる、光子の冷却率、原初磁場のエネルギー密度およびX粒子の質量と寿命を同時に制限する。光子冷却は、ダークマター候補の一つであるアクシオンがもたらすと示唆されている。当研究では、制限した結果を、アクシオンの理論模型から類推される光子冷却率と比較し、当モデルの妥当性を議論する。計算時間のロスを可能な限り減らしたとはいえ、先行研究の実績から、当計算には、数週間から数か月の計算時間が必要であると予想される。そこで、限られた時間内で効率よく目標を達成し、国内外の競合する研究グループより早く、より質の高い成果を出すために、当研究費で計算機環境を整備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大幅に減額された申請経費にあわせて研究計画を見直した。その際、予算内におさまるよう、物品費の大部分を占める計算機の購入を一台減らし、計算機の性能も当初予定より低いものにした結果、予想以上に安価で計算機を購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
計算機購入費にあてる。
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