研究実績の概要 |
ヘリウム量や相対論的粒子エネルギー密度(光子, ニュートリノ, 暗黒輻射等のエネルギー密度の合計, また粒子ではないが磁場のエネルギー密度も含まれる)は, それまで電離した粒子(電子や陽子)と相互作用していた光子が直進できるようになる時代(宇宙の晴れ上がり)前後の宇宙流体の音響振動に影響を与える. 原初磁場も電磁流体の効果を通して, 宇宙流体の平均的な音速を押し上げ, ポテンシャルの時間進化を鈍化させる. また, 原初磁場のエネルギー密度を含む相対論的粒子エネルギー密度はビッグバン元素合成を決める要素の一つであり, ヘリウム量はビッグバン元素合成モデルに依存する. 故に, 宇宙の晴れ上がり時代の情報を内包する宇宙背景放射や物質密度場の観測結果から制限した, 原初磁場, 相対論的エネルギー密度, およびヘリウム量と, ビッグバン元素合成理論から導かれる同パラメータの制限結果を比較することで, 複合ビッグバン元素合成モデルを別の角度から検証できる. 平成29年度は, 上記を考慮して我々の先行研究で構築した, 原初磁場のスペクトルを数値計算するコードを改良と, それを宇宙背景放射および物質密度場を数値的に計算するコードに組み込んだ. この数値計算コードから導出した結果と対応する宇宙背景放射および物質密度場の観測を比較することで原初磁場のエネルギー密度を考慮した理論モデルがどの程度, 他の宇宙論パラメータ制限に影響するか調べ, その重要性を議論した. その過程で, 原初磁場のパワースペクトル指数が-1.5以下の線形摂動が優勢の領域と, -1.5以上の原初磁場のエネルギー密度が優勢かつパワースペクトル指数と原初磁場の振幅が完全に縮退する領域が等価でないことが分かり, 領域ごとの詳しい解析とそれによるパラメータ制限方法の考察を行った.
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今後の研究の推進方策 |
複合ビッグバン元素合成モデルと宇宙背景放射及び物質密度場の理論計算をそれぞれに対応する観測量とMarkov Chain Monte Carlo(MCMC)法を使って, 相対論的エネルギー密度, ヘリウム量, およびそれらと縮退する可能性のある, 宇宙論パラメータと前景成分のパラメータを制限し, 理論モデルの検証を行う.
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