研究課題/領域番号 |
16K20931
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
津川 翔 筑波大学, システム情報系, 助教 (40632732)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネットワーク / ロバスト性 / 影響最大化 |
研究実績の概要 |
本研究では、社会ネットワーク分析の分野で開発されてきたネットワークにおける影響力の強いノードを特定する影響最大化アルゴリズムを応用し、ノードの故障やウィルス拡散に対する将来インターネットの頑健性を向上させる技術を開発することを目的としている。 平成 28 年度はまず、シミュレーション実験により、影響最大化アルゴリズムの基本的な特性の評価を行った。その結果、大規模で動的に変化するネットワークに対して、ノードの次数に基づく影響最大化の発見的アルゴリズムは、ネットワークの局所的な情報のみでも有効に動作することを明らかにした。これにより影響最大化アルゴリズムが、大規模な将来インターネットにおける保護ノード決定手法として利用できる可能性が高いことを確認した。 さらに、将来インターネットにおけるウィルス拡散被害を評価するためのモデルの構築を行なった。ノード間のウィルス拡散と、ウィルス拡散に起因するノードの故障やネットワークからの離脱を表現可能な数理モデルを構築した。構築したモデルを用いた実験により、ネットワークに対して何も保護を行わない場合には、悪意あるユーザの意図的な攻撃によってネットワークが分断されてしまうことを示した。 さらに小規模なネットワークに対して、影響最大化アルゴリズムに基づくノード保護手法を適用し、ネットワークの頑健性がどの程度向上するかを評価した。その結果、影響最大化アルゴリズムに基づくノード保護手法はネットワークの頑健性を向上させるのに有効であるものの、ネットワークの構造的特徴によっては、十分な効果が得られないといった、次年度に向けた課題も抽出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
影響最大化アルゴリズムに基づくノード保護手法を設計し、ノード保護手法の有効性を評価するためのモデルの構築を行なった。また、基礎的な評価により、設計した手法がある程度有効に動作することが確認できた。また次年度に向けた課題も抽出された。ベースとなる手法の開発と、評価環境の構築が完了しており、おおむね順調に進展している。ネットワークの構造的特徴によって、ノード保護手法の有効性が低下してしまうことも確認しているが、次年度以降に予定していた手法の改良の過程で解決していく予定であり、全体の進捗には大きな影響を与えないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成 28 年度までは、ノード保護手法の設計と、その評価基盤の構築に注力し、ノード保護手法の基礎的な評価を実施した。今後は、将来インターネットを想定した環境における評価を実施していく。具体的には、異種のノード、リンクで構成されるネットワーク (ヘテロジニアスなネットワーク) での評価を行う。各リンクの通信容量が異なるという条件、および性能の低いノードは保護できないといった制約条件を与えた場合の手法の有効性を明らかにし、改良を行う。 また、これまでに開発した手法は、予め少数のノードを保護することで、ネットワークが攻撃を受けた際や、故障が生じた際のネットワークの頑健性を高めることを目指していた。それに対して今後は、ネットワークが攻撃を受けた後、あるいは故障が発生した後に、攻撃や故障の被害を抑える手法を検討する。具体的には、ウィルスを拡散させる可能性の高いノードをネットワークから取り除く、あるいはそういったノードに免疫を配布するための手法を考案する。さらには、一部のノードの故障に起因するネットワーク全体の過負荷を防ぐために、故障が発生した際には、各ノードの中継するトラヒックを均一にする手法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大規模ネットワークでのシミュレーションを実施する予定であったが、本年度は小規模ネットワークでのシミュレーションと理論解析に注力した。そのため、シミュレーション用計算機は今年度購入する必要がなくなり、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、当初予定していた大規模ネットワークでのシミュレーションを実施する予定であり、残額は、そのシミュレーション用計算機の購入費用として使用する計画である。
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