研究課題/領域番号 |
16K20940
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
丹羽 秀治 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50704566)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 軟X線分光 / 二次電池 / 正極触媒 |
研究実績の概要 |
次世代電池として注目を集める固体高分子形燃料電池の非白金正極触媒の活性点分布を局所化学状態解析により明らかにすることを目的として研究を行っている。これまでの電池材料の反応活性点に関する知見は、局所的なばらつきを考慮せずに空間平均的な情報を与える手法が主流であったが、走査型透過X線顕微鏡(STXM)やマイクロX線分光により化学状態や結晶構造の空間分布測定が可能になってきた。今年度は、STXM及びX線マイクロビームを用いて以下の知見を得た。 粒形が異なる非白金正極触媒をポリイミドとアセチルアセトン鉄(III)を熱分解して合成し、Nafionと混合させてSTXM測定を行い、アイオノマーと正極触媒の空間分布を調べた。 C1s π*とσ*強度の相関から、 一次粒子径が小さい(60nm)触媒はNafionと均一に混ざっているが、一時粒径が大きい(100nm)触媒はNafionの分布に偏りが見られた。粒径が小さい方が三相界面が良好に形成し、性能(電流-電圧特性)向上の一因となっていることが示唆された。 次に、粒子内の活性点分布測定をSTXMで試みたが、現状のSTXMの空間分解能では有意な差を見出すことができなかった。 そこで、その場観測測定の検討を行う代わりに、サブミクロンオーダーの粒子径を持つ、次世代電池のナトリウムイオン電池正極材料について、X線マイクロビームを利用した結晶構造の空間分布観測を行った。 NaxCoO2は、完放電状態付近でO3とO'3相に相分離することが知られている。 そこで、パルスレーザー堆積法によりNaxCoO2活物質の薄膜試料を作成し、X線マイクロ回折装置を用いて各相のサイズを測定したところ、O'3相のドメインサイズは粒子サイズと同程度であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、STXMにより正極触媒粒子の炭素構造空間分解測定から活性点分布を解明する予定であったが、現状の空間分解能では有意な差を見いだせなかった。 一方、Nafionアイオノマーと正極触媒の混合試料については、粒子径の違いにより混合具合に差が見られ、三相界面形成の観点から電池性能向上の指針が示された。 当初計画していたその場測定装置を開発する代わりに、燃料電池正極触媒よりも粒子径の大きな二次電池正極物質のX線マイクロビーム測定を行った。電池反応前後のドメインサイズを評価し、学術雑誌に論文発表した。 当初の計画と変更はあったものの、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
STXMによる触媒粒子内部の活性点分布測定が困難であったため、その場測定装置を開発するのではなく、より大きな粒子、あるいは粒子間の空間分布を調べる。 今後は、燃料電池正極触媒に加えて、次世代電池であるナトリウムイオン電池正極について、活性点や反応の空間分布測定を行う。具体的には、薄膜試料を作成し、電極近傍からの活物質の空間分布をSEM、顕微ラマン分光により調べる。最終的には、放射光X線マイクロビームを用いた化学状態の空間分布解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の購入予定物品であったロータリーエバポレーターや真空用物品が別予算で購入できたことと、走査型透過X線顕微鏡測定実験の進捗状況から、今年度の大気圧雰囲気下測定装置の作成を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用分は、薄膜電極試料の作成費、顕微ラマン分光等の装置の使用量、国際学会参加費等に充てる予定である。
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