研究課題/領域番号 |
16K20942
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
野口 代 筑波大学, 人間系, 特任助教 (80744854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / BPSD / 応用行動分析 / 非薬物 / 研修 / 介護職員 / スタッフ・サポート・システム |
研究実績の概要 |
応用行動分析に基づく介護職員研修は、認知症の行動・心理症状(BPSD)の軽減に有効とされている。その効果を維持するため、介護施設巡回型スタッフ・サポート・システム(SSS)を開発し、効果検証を行うことを目的とした。 まず平成28年度は、特別支援教育分野において有効性が確かめられている巡回相談システムを応用した介護施設巡回型SSSの開発に着手した。そして29年度は、継続して巡回型SSSの改良を行うため、まずBPSDに対する応用行動分析の有効性について、無作為化比較試験による研究のシステマティック・レビューを行った。その結果、Teri et al. により開発されたStaff Training in Assisted living Residences(STAR)は、マニュアルを基盤とした数少ない応用行動分析による介護職員研修であり、BPSDに対する有効性が最も多く示されていることがわかった。一方で、QOLへの効果の波及が課題として挙げられた。この課題に対して、巡回型SSSでは、ポジティブな行動支援(PBS)を重視する形で研修内容の改良を行った。 このようにして改良した巡回型SSSを用いて、3か所の施設で研修・巡回を実施し、施設職員に自由記述のアンケート調査を行うことで、その実行可能性を検討した。その結果、概ね「分かりやすい」、「実践に活かすことができる」など肯定的な回答が得られた。一方で、一部ではあるが「研修内容が難しい」といった回答もあったため、介護施設職員向けの具体的でわかりやすい応用行動分析による認知症ケアのテキストを作成している。 また、28年度までに開発してきた行動記録のアプリケーションの実行可能性について、介護施設職員に対してヒアリング調査を行った。そこで挙げられた「アプリの操作数」、「表示の仕方」などの課題について、29年度に改良を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に開発した介護施設巡回型スタッフ・サポート・システム(SSS)について、実行可能性の検討を行い、その結果からさらにシステムの改良を行い、効果の検証に着手することが29年度の計画であった。 まず29年度も継続してシステムの改良を行うため、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する応用行動分析のエビデンスについて、無作為化比較試験による研究のシステマティック・レビューを行い、有効性と課題を明らかにした。その結果明らかになった課題に対して、ポジティブな行動支援(PBS)を重視する形で研修内容の改良を行った。 そして改良した巡回型SSSを用いて、3か所の介護施設で研修・巡回を実施し、施設職員に対して自由記述のアンケート調査を行うことで、実行可能性を検討した。ここでの課題から、介護施設の職員向けに、さらに具体的でわかりやすい応用行動分析による認知症ケアのテキストを作成している。そして、このように改良を重ねてきた巡回型SSSの効果の検証にも着手し始めている。 加えて、課題であった介護施設職員による行動の観察記録について、これまでに開発していたアプリケーションを介護施設仕様として改良を行った。今後、アプリについては、介護職員に対して継続して実行可能性の確認を行い、改良を続ける。以上の点からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、介護施設巡回型スタッフ・サポート・システム(SSS)の開発を行った。そして29年度は、開発した巡回型SSSの実行可能性の検討を3か所の施設において行った。その結果から改良を行った巡回型SSSについて、効果の検証に着手しており、30年度は効果検証を継続して行っていく。 具体的には1年間に3施設程度に介入・巡回を行い、効果検証は、入居者に対してはBPSD、QOLの評価を行う。職員に対しては、行動面(支援行動)に加えて、自己効力感、バーンアウトなどの心理面を評価する予定である。 そして本年度途中で随時、学術学会にて研究の経過の報告を行う。また最終的な結果をまとめ、今年度末もしくは来年度の早々に、国内外の学術学会にて発表し、学術雑誌(英文誌を含む)への投稿を行う。さらに、開発した巡回型SSSを広く他の介護施設にて実施できるように研修テキストを作成し、普及活動に役立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度は、インフルエンザの流行により、施設で面会制限があり、研修や巡回が予定通りにいかなかった。それに伴い、研究補助者との日程が合わなくなることがあり、研究補助の回数が少なくなった。そのため、旅費および謝金等の支出が計画よりも少なくなり、13,294円が30年度に繰り越されることになった。 使用計画:繰り越されることとなった13,294円については、29年度において予定よりも少なくなった研究補助の回数を、30年度にまわすため、旅費および謝金等として30年度に使用する予定である。
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