研究課題/領域番号 |
16K20945
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
島田 裕子 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 研究員 (30722699)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内部寄生蜂 / キイロショウジョウバエ / Asobara japonica / 細胞死 / 蛹化 / エクジステロイド / Drosophila melanogaster / 自然免疫応答 |
研究実績の概要 |
本研究は、内部寄生蜂 Asobara japonica が、宿主キイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster の発生プログラムに対して与える影響を分子細胞生物学的に明らかにすることを目指している。申請者は、寄生蜂に感染した宿主幼虫の体内で、将来の成虫組織が退縮する一方、幼虫の発育に必要な脳神経系、脂肪体、そしてステロイドホルモン生合成器官は正常に保たれるというアンバランスな発生現象を見出した。そこで、宿主の発生プログラムが寄生者の発生によって都合よく操作され、組織や器官の成長や個体全体の発育を協調させる恒常性システムが撹乱されているのではないかと着想した。発生学の視点から寄生感染への応答を検証することで、寄生成立の新たな分子機構を発掘すると共に、農業害虫の駆除方策を支える知見の1つとして貢献する。 平成28年度においては、非感染個体と感染個体におけるRNA-seq解析の結果に基づいて、寄生感染によって発現量に変動があった遺伝子候補群を機能別にグループ分けした。その結果、感染後2時間、24時間、48時間で自然免疫応答に関与する遺伝子群の発現が有意に増減することを見出した。そこで、自然免疫応答シグナル伝達経路の突然変異体を用いて感染実験を行ったところ、いくつかの変異体で感染がやや抑制された。これは、本来は宿主幼虫が寄生蜂からの感染を防御するための仕組みが、感染成立に必要であるという一見矛盾した可能性を示唆する。しかしながら、Asobara japonica の感染成功率がほぼ100%である事実を踏まえると、申請者は、寄生蜂が宿主の免疫応答シグナル伝達経路に作用することで感染成功率を高めているという新たな仮説を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、内部寄生蜂の感染によって細胞死が起こることから、よく知られているTNF (Tumor necrosis factor) シグナル伝達経路が関与することを予想していた。しかしながら、ショウジョウバエのTNFホモログであるEigerの機能欠失変異体や下流のJNK シグナル伝達経路の変異体を宿主に用いて寄生蜂感染実験を行ったところ、感染は高確率で成立し、かつ細胞死が誘導されたことから、寄生蜂感染がTNF経路非依存的に細胞死を誘導する可能性が示された。また、細胞周期マーカーFucci やM期のマーカーであるリン酸化ヒストンH3抗体、S期のマーカーであるBrdUを用いた解析から、細胞増殖能は損なわれていないのにも関わらず、細胞死が感染2時間から急速に増えることも新たに判明した。 RNA-seq 解析の結果、自然免疫応答遺伝子群の発現変動が見られたことから、本研究では、自然免疫応答遺伝子が細胞死を誘導することで感染成立に関与する、という新たな可能性について、今後検討していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. Asobara japonica に寄生された宿主幼虫の栄養資源への影響 寄生されたショウジョウバエ幼虫の成虫原基の発育が抑制される原因の1つとして、宿主の栄養が寄生蜂の成長に横取りされている可能性がある。この可能性を検証するため、宿主の体液中を循環するグルコース量とトレハロース量、ならびに脂肪体に蓄積されたトリグリセリド量、タンパク質量、そして脂質量を測定する。一方、宿主体内から寄生蜂の幼虫を取り出してすりつぶして、同様の測定を行う。感染時と非感染時の栄養量を比較して、炭水化物、タンパク質、脂質等の栄養分の宿主―寄生者間での分配を解析する。宿主の栄養分が減少していない場合には、色付した餌を食べさせることによって、全体の摂食量が増えているかどうかを調べる。 2. 論文執筆 一連の実験結果の取得を研究最終年度である平成29年度前期までに完了させて、その後は論文執筆に着手する予定である。
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