研究課題/領域番号 |
16K20950
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
八島 秀明 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (60773512)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症 / 抗菌薬 / 効果判定 / RNA / マーカー / 細菌 |
研究実績の概要 |
近年、多剤耐性菌が原因となる感染症が増加しており、エンピリック治療として使用される抗菌薬に対しても耐性化している細菌が分離されることが少なくない。現在用いられている抗菌薬の効果判定法は長時間を要す上に、得られる情報の信頼性が乏しい場合があることが臨床上問題となっている。本研究ではpre-rRNAという細菌の増殖速度によって変動する核酸をマーカーとして利用し、迅速な抗菌薬の効果判定法を確立するとともに、各抗菌薬の薬効発現プロファイルを詳細に検討し、数理モデルを構築することで、感染症治療における最適な薬剤選択法および薬物療法設計法の構築を行うことが目的である。 細胞・動物実験により、各種細菌へ抗菌薬曝露実験による生菌数プロファイルとpre-rRNA量の相関性を評価・解析し、pre-rRNAによる細菌の抗菌薬感受性予測モデルの構築と、動物感染モデルによるin vivoにおけるpre-rRNAプロファイルの評価を行う。さらに患者サンプルにおいても同様の現象がみられるか確認する目的で、肺炎患者、泌尿器感染症患者のサンプルを用いたpre-rRNAプロファイルの評価と効果判定法の確立を行い、さらに臨床検体中の菌濃度が低い菌血症患者の血液サンプルを用いたpre-rRNAプロファイルの評価と効果判定法の確立を行う。これらの検討の結果を解析しpre-rRNAと各抗菌薬の薬効の数理モデルを構築し、最適な薬剤選択法および薬物投与設計法を構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Pre-rRNAは細菌の細胞増殖の際に合成されるribosomal RNAの前駆体であるため、生菌が増殖すると上昇するが、菌が死滅しRNA合成が止まると、pre-rRNAの合成は止まり、RNaseにより成熟のribosomal RNAとなるため、中間体であるpre-rRNAは減少する。抗菌薬により細菌が死滅した場合も同様の現象がみられると考えられる。まず、抗菌薬を曝露しない条件において、緑膿菌PAO-1株の細菌増殖とpre-rRNAの関係について詳細に検討を行った。その結果、細菌増殖とより関連が強いものは一細菌あたりのpre-rRNA値であることが示唆された。次に、各種抗生物質(βラクタム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系)を緑膿菌PAO-1株に対して曝露した際の、生菌数の変化と細菌から抽出したpre-rRNAの関係性の解析を行った。具体的には抗菌薬の濃度条件を変化させて、抗菌薬曝露後に継時的にサンプリングを行った。一細菌あたりのpre-rRNA値は、抗菌薬非曝露群では細菌増殖2~3時間後に最大値を示したことから、我々はこの3時間値をマーカーとして使用し、緑膿菌PAO-1株に対するメロペネムの曝露実験では、その上昇が抑制されることを見出した。この差異を測定することで、感染症サンプル中の起因菌の抗菌薬感受性は判定可能となった。一方でメロペネム以外にシプロフロキサシンとトブラマイシンを用いた検討を行った結果、pre-rRNAのプロファイルに薬剤間の違いがみられた。これは各抗菌薬の作用機序の違いによりpre-rRNAの合成・分解に変化が起こったためと考えられた。一律のモデル式で表すことができないことが示唆され研究計画に比較して多少遅れが生じている。現在は作用機序が違う抗菌薬ごとにpre-rRNA値の変化を表すモデルの構築を目的に、種々の抗菌薬の曝露実験データを収集している。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで得られたデータから、pre-rRNAのプロファイルは①殺菌的作用を有する抗菌薬、②静菌的作用を有する抗菌薬、③pre-rRNAの合成を直接阻害する抗菌薬の3つの異なるグループに分けられると推測している。今後は最も少ない変数にてモデル化可能と推測される「③pre-rRNAの合成を直接阻害する抗菌薬」のニューキノロン系薬剤について詳細なデータ収集・解析をおこなう予定である。現在はMICの違う複数のニューキノロン系薬剤について曝露時の一細菌当たりのpre-rRNAデータを収集を行っており、そのデータを使用してシステムバイオロジーの手法にてモデル化を行うことを検討している。これらのin vitroにおけるpre-rRNAの抗菌薬曝露時のモデル化と並行して、動物感染モデルによるin vivoにおけるpre-rRNAプロファイルの評価の実施を計画している。生体内では抗菌薬の効果と生物が持つ免疫作用の2つの効果により菌を殺菌している。in vitro実験では前者の効果のみの評価しかできないため動物感染モデルを用いた場合のpre-rRNAプロファイルを評価する必要がある。具体的には抗菌薬の薬効評価で一般的に用いられている肺炎モデルマウスもしくは大腿部感染マウスを用いてpre-rRNAプロファイルの評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vitro実験でのデータが予想と異なり抗菌薬の作用機序ごとにモデル式が異なり、複雑な現象であったため、in vitro実験を当初の予定よりも長く、様々な条件で実施している。本来であればモデル式の構築後、in vivo実験を本年度中に実施予定であったが、上記の理由により行うことができなかったため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
作用機序ごとに薬剤曝露時の一細菌当たりのpre-rRNAデータを収集し、システムバイオロジーの手法を用いてモデル化を行うことを検討している。これらのin vitroにおけるpre-rRNAの抗菌薬曝露時のモデル化と並行して、前年度に実施予定であった動物感染モデルによるin vivoにおけるpre-rRNAプロファイルの評価の実施を計画している。
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