本研究ではpre-rRNAという細菌の増殖速度によって変動する核酸をマーカーとして利用し、迅速な抗菌薬の効果判定法を確立することで、感染症治療における最適な薬剤選択法および薬物療法設計法の構築を行うことが目的である。これまでに抗菌薬を曝露しない条件において、緑膿菌PAO-1株の細菌増殖とpre-rRNAの関係について行った検討では、細菌増殖とより関連が強いものは一細菌あたりのpre-rRNA値であることを明らかにした。次にβラクタム系抗菌薬を緑膿菌PAO-1株に対して曝露した際の、生菌数の変化と細菌から抽出したpre-rRNAの関係性の解析を行った。抗菌薬の濃度条件を変化させて、抗菌薬曝露後に継時的 にサンプリングを行った結果、一細菌あたりのpre-rRNA値は、抗菌薬非曝露群では細菌増殖2~3時間後に最大値を示したことから、この3時間値をマーカーとして使用し、一細菌あたりのpre-rRNA値から、細菌に対する感受性判定が可能となることを明らかにした。一方で、シプロフロキサシンの曝露ではメロペネムに比較してより顕著な低下、トブラマイシンは逆に大きい変化が見られないという結果が得られ、pre-rRNAのプロファイルに薬剤の作用機序ごとの特徴があることを突き止めた。 また、当初の測定方法では寒天培地を用いて生菌数を計測していたため、測定に長時間を要すとともに、細菌の取り扱い技能が必要であった。そこで生菌数の代わりに細菌のペレットから抽出したゲノムDNAの定量値で標準化することで約6時間程度と短時間で簡便に一細菌あたりのpre-rRNA値に相当する値を得ることが可能とした。さらに、核酸の測定方法をインターカレーター法から特異度の高いプローブ法に変更したこと、および既存のRNA抽出キットを用いたことで汎用性の高いプロトコールを構築することで、臨床現場で使用しやすい測定法を確立した。
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