研究課題
脳マラリアのモデルであるネズミマラリア原虫Plasmodium berghei ANKA株(PbA)を感染させたC57BL/6(B6)マウスでは、小腸病態が生じるとともに腸内細菌叢が劇的に変化して腸内細菌バランス失調(dysbiosis)を起こす。またParasitemia(原虫の赤血球寄生率)および脳症状と相関が認められる菌が検出され、脳マラリアを含むマラリアの病態に腸内細菌が関与している可能性が示唆されたことから、本研究では、マラリア感染病態への腸内細菌の作用機序の解明することを目的としている。本年度は、腸内細菌のマラリアの病態に与える影響を確認するため、無菌あるいは抗生物質を投与し腸内細菌を減じたB6マウスにPbA(強毒株)を感染させ、感染動態と脳マラリアの検討を行った。その結果、無菌B6マウスでは対照と比較して、Parasitemiaおよび生存率に差は認められなかったが、抗生物質を投与したB6マウスにおいて差が認められた。抗生物質投与により血液寒天培地による腸内細菌の検出が検出限界以下になる場合には、無菌マウス同様、対照マウスと比較して感染動態および脳マラリアに差が認められない一方、抗生物質投与により腸内細菌が減少するものの変化した菌叢が残る場合には、脳症状が軽症となり有意な生存率の差が認められた。抗生物質が直接、原虫の発育に影響を与えるか確認するため、抗生物質存在下でPbAを培養した結果、原虫の発育には影響が無いことを確認した。これらの結果から、腸内細菌が無いことはPbA感染病態の軽減・増悪に寄与しないが、抗生物質により腸内細菌を減少・変化させることにより病態が軽減することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
腸内細菌のマラリアの病態に与える影響の確認は、一部、詳細な解析に至っていない部分も見られるが、抗生物質により腸内細菌叢を変化させることにより、感染病態に変化が認められることが明らかとなり、作用メカニズムの解明につながる進展が得られた。
感染により変化する腸内細菌が単一ではなく、単一種の投与で腸内細菌の効果を評価して特定することが難しい現状から、病態形成に関連する腸内細菌の特定と特定した菌を用いた作用メカニズムの解明を同時に進めることにする。具体的には、抗生剤投与等の方法で腸内細菌の絞り込みを行いながら、マラリア病態が変わる条件において腸内細菌の作用メカニズムの解明を進める。
次年度以降に予定していた腸内細菌の作用メカニズムの解析を前倒しで行うため、またヒト熱帯熱マラリア患者における腸内細菌叢の解析を行うために前倒しでの支払い請求を行ったが、腸内細菌の作用メカニズムの解析までは至らなかったため、次年度使用額が生じた。
当初の計画通り、腸内細菌の作用メカニズムの解析のための実験動物および抗体等試薬の購入に使用する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
Malar J
巻: 15(1) ページ: 499
10.1186/s12936-016-1548-3
http://www.med.gunma-u.ac.jp/med-organization/envmed/envmed-defense/157.html/