研究課題/領域番号 |
16K20953
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
宮城 敦子 埼玉大学, 理工学研究科, 研究支援者 (00645971)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イネ / シュウ酸 / メタボロミクス / CE-QQQ-MS / ICL / 重イオンビーム / 品種間差 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、イネを用いたシュウ酸蓄積の分子機構解明を目的として、メタボローム解析を中心とした研究を行っている。本年度は、まず、シュウ酸合成経路の1つであるイソクエン酸経路の主要酵素とされるイソクエン酸リアーゼ(ICL)遺伝子について、ICLプロモーターGUS植物体を用いた発現解析を行った。その結果、定常状態の葉ではICLが発現しないものの、冠水させた幼植物体の葉においてICLが冠水後1日で発現することが明らかになった。また、種子ではシュウ酸をほとんど蓄積していないものの、ICLが種子のアリューロン層(糊粉層)において発現することも本研究によって初めて見出された。次に、ICL 以外のシュウ酸蓄積に関与する新規遺伝子座を特定するため、シュウ酸含有量の品種間差を利用したゲノム比較解析に着目した。シュウ酸含有量が異なる品種を探索する一環で、コシヒカリとタカナリの葉におけるシュウ酸含有量をキャピラリー電気泳動-トリプル四重極型質量分析装置(CE-QQQ-MS)で測定した。この2品種の葉のシュウ酸含有量を比較したところ、タカナリではコシヒカリの2から10分の1倍程度までシュウ酸含有量が少ないことが明らかになった。さらに、重イオンビームを照射したコシヒカリ(M2世代)から見出された低シュウ酸個体における代謝変動を明らかにするため、CE-QQQ-MSを用いたメタボローム解析を行った。その結果、イオンビーム照射個体における葉のシュウ酸含有量の低下が、シュウ酸周辺の炭素代謝物量が減少しアミノ酸が増加したことによるものと、一次代謝物含有量が全体的に減少したためにシュウ酸が減少したと考えられるものの2パターンに分類されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シュウ酸合成経路の1つであるイソクエン酸経路の主要酵素ICLの機能解析を行うにあたり、作成したICLプロモーターGUSイネ系統を用いた発現解析により、水没時の幼植物体の葉において発現が誘導されることを示すことが出来た。さらに、ICLが種子のアリューロン層においても発現することも示せた。ICLノックダウン系統についてもRNAi法を用いて作出済であり、予定以上に研究が進んでいる。品種間差を利用した遺伝学的解析を行う上で、シュウ酸含有量が数倍は異なる2品種を見出す必要があったが、シュウ酸含有量が2‐10倍程度異なる品種として、既に染色体部分置換系統が確立されているタカナリとコシヒカリを見出すことが出来た。このため、当初の予定通り次年度は染色体置換系統を用いた解析に進むことが出来ると考えている。イオンビーム照射によって見出された低シュウ酸個体の代謝解析についても、当初の予定通り、CE-QQQ-MSを用いたターゲットメタボロミクスにより、低シュウ酸化の理由としてシュウ酸周辺の炭素代謝物量が減少しアミノ酸が増加したことによるものと、一次代謝物含有量の全体的な減少によることが推測することが出来た。なお、これらの内容の一部については学会にて口頭発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
当研究室において作出したICLプロモーターGUS植物体の解析より、水没によりイネの葉でのICL発現が確認できたことから、水没時における野生型の葉のシュウ酸含有量を測定し、水没時に発現が増加するICLによってシュウ酸が蓄積するか否かを検証する。次に、RNAi法を用いて作成したICLノックダウン系統において、ICLの発現抑制をRT-PCRにより確認するとともにシュウ酸含有量を測定することにより、シュウ酸蓄積におけるICLの寄与を検証する。また、タカナリとコシヒカリにおいて、シュウ酸含有量が2‐10倍程度異なることが示されたことから、タカナリとコシヒカリの染色体部分置換系統(計80系統)の葉のシュウ酸含有量を測定する。タカナリにおいて高シュウ酸化した系統、または、コシヒカリにおいて低シュウ酸化した系統を選抜することにより、シュウ酸蓄積に寄与する染色体置換部位の特定を行う。さらに、イオンビーム照射個体の後代(M3またはM4)の葉において、低シュウ酸形質が遺伝しているか否かを検証する。後代においても低シュウ酸形質が遺伝した個体が見つかれば、非照射個体との掛け合わせを行い、MutMap法によるシュウ酸蓄積に関与する遺伝子(座)の特定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は本研究課題を推進するうえでの主力である質量分析装置(CE-QQQ-MS)において、メーカーの初期設計不良によるトラブルのため測定不能期間があり、予定よりも消耗品などの購入量が大幅に減少したため。また、メーカーによる初期設計不良および保守契約期間内であったため、質量分析装置の故障修理やメンテナンスなどに必要な経費が発生しなかったため。さらに、研究の進捗状況を踏まえ、当初予定していた国際学会での発表参加を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度より持ち越している質量分析装置(CE-QQQ-MS)測定のための経費(試薬、抽出カラム、キャピラリー、バイアルなどの消耗品の購入、メンテナンス経費など)のほか、国際学会への発表参加や学術雑誌への投稿、印刷代などの経費として、本年度予算分として計上した研究費と合わせて支出予定である。
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