研究課題
近年、新たな冷暖房システムとして、地下と熱交換を行う地中熱ヒートポンプが、世界的に普及し始めている。このシステムは、今後の持続的な利用と発展が望まれているが、その稼働に伴う地下環境への影響については研究例に乏しく、その詳細は明らかにされていない。そこで本研究では、特に地下水質(重金属類ほか)と不飽和帯における温室効果ガス(主に、二酸化炭素)の動態に着目し、複数の稼働条件下でシステムを運転させ、それら地下水質と温室効果ガスの動態に、システムの利用が及ぼす影響を定量的に評価することを目的している。本年度は、不圧帯水層に地下水観測用の井戸(深度約2.0 m)を新設し、まずは自然状態での地下水質を把握するため、月に数回程度の高頻度モニタリングを実施した。また、被圧帯水層では、海成層(深度約17 m)と非海成層(深度約39 m)に設置されている地下水観測用の井戸において、継続的なデータ蓄積のため、月に1回程度の頻度で、地下水質をモニタリングした。さらに、温室効果ガスについては、特に二酸化炭素を対象とし、クローズドチャンバーでその地表面フラックスを、土壌内に埋設した採気チューブから土壌ガスをサンプリングならびに濃度測定を行い、その土壌内フラックスをそれぞれ月に数回の頻度でモニタリングを行った。被圧帯水層では、年間を通じて、地下水質が極めて安定していることが分かっているが、新設した不圧帯水層においては、比較的その変動が大きいことが明らかになった。また、不飽和帯における二酸化炭素の動態として、年間の自然の温度変化を利用し、その地表面フラックスと土壌内フラックスに温度が及ぼす影響を検討した結果、特に地表面フラックスに関しては、浅層の温度が上昇するにつれ、二酸化炭素フラックスが顕著に上昇する傾向が得られた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、今年度、地中熱ヒートポンプの継続的な冷房運転を実施予定としていたが、自然条件下における不圧帯水層のモニタリングが不可欠となり、また、不飽和帯の二酸化炭素フラックスに対しては、年間の自然の温度変化を利用できることもあり、冷房運転は実施しなかった。本研究を遂行するに当たり、今年度のこれらの作業は極めて重要と考えられるため、おおむね順調に研究は進展していると考えている。
今後は、地中熱ヒートポンプの継続的な冷房運転を実施し、その後、暖房運転を行う予定である。いずれも、半年間程度の期間を想定している。その際、特に不圧帯水層と非海成層から構成される被圧帯水層の地下水質を重点的にモニタリングすると同時に、不飽和帯における地表面および土壌内の二酸化炭素フラックスを補足的に観測する予定である。
次年度、通常のオフィスなどに近い冷暖房の稼働条件で運転できる地中熱ヒートポンプの制御システムを導入する予定があり、そのシステムが予定より高額な可能性が想定されているため、次年度使用額を確保した。
通常の冷暖房運転条件下で、地下環境影響評価を実施するため、上記した地中熱ヒートポンプの制御システムを導入する。次年度の予算のうち多くは、このシステムの導入費用にあてる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Water Research
巻: 94 ページ: 120-127
10.1016/j.watres.2016.01.043
第22回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集
巻: 22 ページ: 1-4