研究課題
近年、新たな冷暖房システムとして、地下浅層の低温熱エネルギーである地中熱を利用した地中熱ヒートポンプが、世界的に普及し始めている。このシステムは、今後の持続的な利用と発展が望まれているが、その稼働に伴う地下環境への影響は研究例に乏しく、その詳細は明らかにされていない。よって、本研究では、特に地下水質(重金属類ほか)と不飽和帯の温室効果ガス(特に、二酸化炭素)の動態に着目し、複数の稼働条件下でシステムを運転させ、地下水質と温室効果ガスの動態にシステムの利用が及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした。本年度は、2017年10月下旬に開始したかなり強い冷房運転を想定した現場試験を、2018年5月中旬に終了し、現場を自然放冷条件下におき、地下水質を対象とした不圧帯水層(深度2 m付近)と被圧帯水層(深度17 mおよび39 m付近)での月数回のモニタリング作業を継続した。なお、不飽和帯の温室効果ガス動態(二酸化炭素フラックス)については、十分なデータが得られたため終了した。被圧帯水層では、十分なデータを得ることができ、環境基準に規定される有害重金属類であるホウ素やヒ素などに、温度上昇に伴う濃度上昇傾向が確認された。不圧帯水層でも、集中的な観測に取り組んだ結果、ホウ素とヒ素などに濃度上昇傾向が認められた。不圧帯水層では、鉄についても濃度上昇傾向が得られたことから、温度上昇に伴う水酸化鉄の還元分解が生じ、ヒ素がリリースされたことが示唆された。一方、被圧帯水層では、鉄に変化がなかったことから、別のメカニズム、すなわち、粘土鉱物や水酸化鉄に吸着しているヒ素が、温度上昇により脱離した可能性が推察された。
2: おおむね順調に進展している
本研究で対象とした3つの帯水層における地下水質について、また、不飽和帯における二酸化炭素フラックスに関しても、温度変化に伴うそれぞれの動態変化について、十分なデータを得ることができたためである。ただし、より通常の冷暖房運転に近い稼働条件下で、モニタリングを進める必要がある。
次年度は、より通常の冷暖房運転に近い稼働条件で現場試験を行い、周辺地下の温度変化などを継続的にモニタリングする。その結果に基づき、現在までの観測で得られている温度変化と地下水質変化、温度変化と二酸化炭素フラックス変化の関係性をそれぞれ利用し、数値解析手法も補足的に活用することで(数値解析は、国際共同研究にて実施)、地中熱利用システムの地下環境影響評価を進める。また、特に地下水質変化が生じたメカニズムをより詳細に理解するため、試験現場から得た堆積物を利用した室内試験も実施する予定である。
以前から、通常のオフィスなどに近い冷暖房の稼働条件で運転できる地中熱ヒートポンプの制御ユニットを導入する予定と記載してきたが、今年度初頭にシステム詳細を再設計し、費用や性能など詳細を検討した。その結果、システムは高額な割に、有用な制御は難しいことが分かり(より高度に制御するには、更なる高額なユニットが必要)、その制御ユニットに使用する予定だった費用は、別計画(下記参照)に活用することとした。より通常の冷暖房運転に近い稼働条件は、仮想的にマニュアル作業でコントロールする。次年度、特に現場試験から得られた地下温度変化について、その数値解析作業を国際共同研究(France, Grenoble Alps University)により進める予定であり、その渡航費や滞在費などに残額を使用する。また、新たに実施する室内試験(場合によっては、補足的な現場調査の旅費などにも転用する)の費用、さらに、今まで得られた成果の学会(国内および国際)発表や論文(国内誌ならびに国際誌)投稿にも残額を活用する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
地盤工学会誌
巻: 67 ページ: 28~29