インフルエンザウイルスや感染細胞の表面にはシアル酸を分解する酵素ノイラミニダーゼが存在する。本研究は、ノイラミニダーゼの作用でシアル酸が分解されることを引き金に、膜溶解性ペプチドが遊離することで、反応場近傍にあるウイルスや感染細胞を破壊する人工ペプチドの構築を目標とするものである。 初年度はノイラミニダーゼに応答してアミン含有基質を遊離する機構をもつ新規シアル酸含有リンカーを設計した。意図した機構が起こるかどうかを確かめるため、昨年度は本リンカーをp-ニトロアニリンのアミノ基に結合したモデル基質を合成した。本基質をノイラミニダーゼで処理すると時間の経過とともに発色が強くなったことから、ノイラミニダーゼ存在下で確かにp-ニトロアニリンの遊離が起こることが示された。本年度はNMR測定により反応を詳細に追跡した。その結果、ノイラミニダーゼの作用でアミン含有基質が遊離されるのと並行して、ノイラミニダーゼの活性が低下することを見出した。すなわち、ノイラミニダーゼによってシアル酸が切断されると、リンカー部位が自発的に崩壊してアミン含有基質が遊離されるが、その過程で発生するキノンメチド中間体はノイラミニダーゼと副反応して酵素活性を低下させていることが示唆された。 次にノイラミニダーゼ応答性リンカーを脂質溶解性ペプチドのリジン側鎖に結合したネオ糖ペプチドの合成を検討した。あらかじめ合成したペプチドに本リンカーを結合させる反応は進行しなかった。ペプチドの嵩高さが原因と考え、ペプチドを数アミノ酸残基に断片化して本リンカーとの結合を試みたところ、いずれの反応もスムーズに進行した。得られたオリゴネオ糖ペプチドをフラグメント縮合することで、より長鎖のネオ糖ペプチドを構築することができた。
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