研究課題/領域番号 |
16K20962
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢守 航 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90638363)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光合成 / リニア電子伝達 / サイクリック電子伝達 / NDH complex / PGR5 / 変動光 |
研究実績の概要 |
自然界で、植物の受ける光環境は、天候や植物体同士の相互被陰によって一日を通して常に変動しているが、「変動する光環境ストレス」に対する植物の光合成応答のメカニズムは解明されていない。強光ストレスなどから生じる過剰エネルギー散逸経路として、光化学系Iサイクリック電子伝達経路が注目され研究されてきた。サイクリック電子伝達には、PGR5-PGRL1タンパク質とNDH複合体に依存する二つの経路が存在する。そこで、二つのサイクリック経路それぞれを欠損させた変異体イネを使って、野外に近い変動光環境下で、光合成の電子伝達反応とCO2の取り込み速度を同時測定するという最新の手法を用いて解析した。一定の光環境で栽培し、その栽培条件で電子伝達速度とCO2固定速度を測定したところ、野生株と変異株の間で差は見られなかった。しかし、変動する光条件で光合成を解析したところ、PGR5依存経路やNDH依存経路が欠損することによって、サイクリック電子伝達経路が関わる光化学系Iの電子伝達速度が大きく減少し、その結果として、CO2同化速度が共に大きく減少することを示した。さらに、長期間、変動する光環境下で植物を栽培したところ、PGR5依存経路やNDH依存経路の欠損によって植物成長が大きく減少することを明らかにした。本研究成果として、二つのサイクリック経路が共に働くことで、「変動する光環境ストレス」から身を守っていることが分かり、野外で変動する光環境に対する植物の調節メカニズムを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ガス交換解析によるCO2同化速度、クロロフィル蛍光による光化学系II (PSII) 電子伝達速度やP700吸光解析による光化学系I (PSI)の電子伝達速度を同時解析できるシステムを構築し、変動光に対する光合成応答を包括的に解析することを可能にした。これまでの研究成果から、PGR5依存経路やNDH依存経路が欠損することによって、サイクリック電子伝達経路が関わる光化学系Iの電子伝達速度が大きく減少し、その結果として、リニア電子伝達経路が関与する光化学系IIの電子伝達速度とCO2同化速度は共に減少することを明らかにしたい。さらに、長期間、変動する光環境下で植物を栽培したところ、PGR5依存経路やNDH依存経路の欠損によって植物成長が大きく減少することも明らかとなった。このように、二つのサイクリック経路が共に働くことで、「変動する光環境ストレス」による光合成阻害を回避して身を守るという植物の調節メカニズムを明らかにすることができた。 研究成果の一部を原著論文として国際誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果によって、光合成の電子伝達に関わる2つのサイクリック経路が、変動する光環境に対する光合成応答に重要な役割を果たすことを明らかにした。今後、光照射後の光合成誘導反応の遺伝子発現から代謝産物変化を含む階層的解明を目標とする。RNA-seqによる遺伝子発現解析や、特に炭酸固定と光呼吸に着目したメタボローム解析から、変動光環境に対する光合成の応答機構を詳細に解明し、光合成の電子伝達反応の改変による炭酸固定反応の最適化に向けた技術基盤を固める。同時に、PGR5依存経路とNDH依存経路それぞれを欠損した変異体イネ、そして、それらの野生体を特定網室で栽培し、複合的な環境要因(強光、弱光、高温、低温、乾燥など)を含む自然環境下におけるサイクリック電子伝達経路の役割を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物栽培や光合成解析を担当する技術補佐員が見つからず、人件費・謝金を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究成果に基づいて、現在、複数の研究者と共同研究によって本プロジェクトを広範囲に進めている。そこで、平成29年度は、平成28年度分の人件費・謝金の代わりに物品費として使用し、トランスクリプトーム解析やメタボローム解析に必要な試薬などに使用する予定である。これらのオミクス解析結果から、変動光環境に対する光合成の応答機構を全貌解明するべく、研究を加速させる予定である。
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