研究課題/領域番号 |
16K20968
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐伯 亘平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (30769005)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | BRAF遺伝子変異 / MAPK / COX2 / 犬膀胱移行上皮癌 |
研究実績の概要 |
今年度、申請者らは自身らが樹立したBRAF変異犬移行上皮癌細胞株を用いて、薬理学的なBRAF阻害後の経時的な下流経路(ERK/MAPK)、COX発現量及びPGE2産生量の評価を行い、ERK/MAPK経路の阻害がCOX2発現と深く関連することを詳細に確認した。一方でBRAF阻害薬を用いても下流のERKのリン酸化抑制は一時的なものであって、ERKの再活性化が何らかの要因によって起こるとともにCOX2の発現が再度誘導されることを見出した。この結果を受けて、薬理学的なBRAF阻害下で細胞より抽出したmRNAを用い、網羅的な発現変動解析を行いMAPK経路の活性化とCOX2発現を仲介する分子機構に関して、またBRAF阻害下におけるERK再活性化のメカニズムに関して検討を行う基盤となるデータを得た。これらの発現データの一時解析によってBRAF阻害により細胞が間葉上皮転換様の変化を起こす可能性が考慮されており、BRAF遺伝子変異の新たな意義が示唆されている。さらに次年度に予定していた、症例におけるBRAF変異と腫瘍の生物学的挙動に関する検討を開始している。膀胱移行上皮癌症例を膀胱尖部に発生した症例で膀胱部分摘出術を受けた群と、膀胱頚部に腫瘍を発生した症例であって膀胱全摘術を実施した群に分け、それらの両群の間でBRAF遺伝子変異が予後因子となりうるかを検討した。その結果、BRAF遺伝子変異の有無はいずれの群においても無増悪期間や生存期間などの長期予後に影響を与えないことを見出した。この結果は、国際学会にて発表された。またBRAF変異を持つ移行上皮癌細胞が多量のプロスタグランジン産生を行うという結果に関して論文投稿を行い国際誌へ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、(1)犬BRAF変異株においてBRAF活性化が細胞増殖に与える影響の多面的な検討、(2)変異型 BRAF による COX2-PGE2 発現誘導の証明とメカニズム解明、(3)症例検体における BRAF 変異と炎症誘導、腫瘍の生物学的挙動に関する検討、(4)BRAF 変異腫瘍に対する BRAF-COX2-PGE2 阻害の抗腫瘍効果に関する検討の4点を解決課題として挙げている。当初の計画では今年度は主に(1)、(2)に取り込む予定であったが、(2)を検討していく中で薬理学的なBRAF阻害に対し、ERKを再活性化させるバイパス経路の存在が示唆された。そのため(1)を検討する上でも広くこのバイパス経路に関する情報を得るために、BRAF阻害下で網羅的な発現解析を実施した。そのため今年度中には(1)を検討することが不可能であったが、これらの変更を補うために前倒しで(3)に取り組んでおり、順調に解析を進めて国際学会での発表を行うに至っている。そのため当初と計画の進行に変更はあったものの、新たな課題を解決するための修正も予算内で実施できており、おおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の結果から新たにBRAF経路阻害時にERK経路を活性化されるバイパス経路の存在が強く示唆された。研究課題の(1)、(2)、(4)に関してはこれらバイパス経路を踏まえた上での検討が必要となるため、まずは平成28年度に得た網羅的遺伝子発現解析の結果を解析し、必要に応じて薬剤スクリーニング等を追加しながらバイパス経路の解明を行っていく。それらの解析が終了したのちに、当初の計画にのっとって、バイパス経路を考慮しながら(1)、(2)、(4)の解析を進めていく。また(3)に関しては前倒しで進めている解析を継続し、症例検体におけるBRAF変異と腫瘍炎症環境との関連を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の予算押して画像撮影解析機器を計上していたが、共通機器を利用すること等により、購入を行うことなく研究を遂行することができたため、次年度への繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に実施した研究結果により、BRAF阻害に対するバイパス経路の存在が強く示唆された。そのため当初の計画よりも多くの抗体やプライマー、また薬剤スクリーニングなどが必要となることが予想される。繰り越した次年度使用額はこれらを補填するために用いる予定である。
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