今年度は、犬移行上皮癌におけるBRAF遺伝子変異の意義をバイパス経路の存在も含め①細胞の生存・増殖と②COX2/PGE2の過剰発現を介した炎症環境の構築、という観点から検討した。 細胞増殖に関してBRAF阻害時のERKリン酸化の程度をsiRNA及びpan-RAF阻害剤を用いて経時的に検討したところ、BRAF単独の阻害では下流シグナルの抑制が一時的であり、他のRAFアイソフォームやPI3K/AKT経路を介した増殖シグナルの再活性化機構が生じることが示唆された。 COX2/PGE2産生に関してもBRAF以外のRAFアイソフォームによる経路再活性化がBRAF阻害時のCOX2発現に関与する可能性が考えられた。更に化合物ライブラリを用いたスクリーニングにより、PGE2産生に関してp38/JNK経路の関連も強く示唆された。 BRAF変異と腫瘍微小環境の関連に関して、BRAF変異の有無ではCOX2発現や腫瘍組織中への免疫細胞、がん関連線維芽細胞、血管新生の程度に明らかな差はみられなかった。しかしながら、BRAF変異症例と変異無し症例をそれぞれCOX2の発現量で分類したところ、BRAF変異群ではCOX2の発現に伴ってがん関連炎症細胞浸潤が増加するのに対し、野生型群ではCOX2の発現に伴ってそれらが減少するという興味深い知見を得た。 以上より、BRAF遺伝子変異は(1)PI3K/AKT経路と強調して細胞増殖に関与している可能性、(2)ERK/MAPK経路を介してCOX2/PGE2発現誘導に重要な役割を果たすが、その阻害時には他のRAFアイソフォームが経路の再活性に関わる可能性。また、p38/JNK経路も犬移行上皮癌におけるPGE2産生に大きく関与する可能性。(3)BRAF変異の有無により、COX2発現によって生じる腫瘍炎症環境の方向性が異なる可能性、を明らかにした
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