研究課題/領域番号 |
16K20969
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 薫 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00735152)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経科学 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病・レビー小体型認知症患者脳神経細胞においてレビー小体として凝集・異常蓄積するαシヌクレインが、神経細胞間で伝播する「細胞間伝播」という現象が見出されたが、その詳細な分子メカニズムは未だ不明である。そこで本研究では細胞間伝播における鍵経路であるαシヌクレインの細胞外放出を制御するメカニズムを明らかにすることを目標とした。その制御メカニズムとして、αシヌクレインの細胞外分泌が神経活動依存的に生じているという仮説をたて、平成28年度にはその実験的検証を行った。in vitro初代培養神経細胞を用いた実験で、標的機構の異なる複数の薬理学的処理による神経活動の亢進・低下に応じて、内因性αシヌクレインの分泌が変化することを明らかにした。またreverse microdialysis法を用いた検討で、神経活動の変化が分泌だけでなく、脳間質液中のαシヌクレイン定常状態に影響し、脳内における~70%の細胞外αシヌクレイン量を左右する主要な制御メカニズムであることを明らかにした。さらに神経活動の中でも特にグルタミン酸作動性神経伝達に着目し、その亢進・低下がαシヌクレイン分泌と定常状態量を変化させるメカニズムであることを見出した。αシヌクレインの細胞外分泌はプレシナプスからのシナプス小胞放出と連動しており、α-Latrotoxinを用いたシナプス小胞の放出促進下では、活動電位発生とポストシナプスにおけるグルタミン酸受容体を抑制した状態でもαシヌクレイン放出が亢進し、神経活動がシナプス小胞放出を介し、αシヌクレイン分泌を制御している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画では、内因性αシヌクレインの細胞外放出が神経活動依存的に生じているという仮説のもと、その実験的な検証をin vitroの初代培養神経細胞を用いた実験系と、in vivo microdialysis法を用いた実験系で行うことを主目的としていた。初代培養神経細胞を用いた実験、in vivo microdialysis法を用いた実験系で、上記の仮説を裏付ける実験結果を複数得ることができた。これに加えてグルタミン酸作動性神経伝達がαシヌクレイン分泌を調節することを明らかにし、プレシナプスからのシナプス小胞放出がαシヌクレイン分泌と相関することも見出した。研究代表者はアルツハイマー病患者で神経原線維変化として蓄積し、細胞間を伝播することが知られているタウタンパク質が、神経活動依存的に細胞外へ放出されることを報告しているが、本研究により、タウとαシヌクレインの細胞外放出機構に共通する制御機構があることが考えられた。脳内の~70%の細胞外αシヌクレイン量を規定する主要な制御メカニズムを同定できたことに加え、αシヌクレインの分泌とプレシナプス活動との相関を示す結果も得られ、αシヌクレイン分泌解明につながる新知見が得られたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において神経活動依存的な機構は、in vivoにおいて細胞外のαシヌクレイン量を規定する主要な制御メカニズムであることが示唆された。そこで今後は神経活動依存的なαシヌクレイン分泌制御機構についてさらに詳細な検討を重ねる。また今後は凝集・蓄積を生じない内因性のマウスαシヌクレインだけでなく、凝集の核となり、細胞間を伝播する異常なαシヌクレインの分泌機構について検討可能な実験系の構築に着手する。
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