昨年度までの研究で、TGF-betaによる乳腺上皮細胞および乳がん細胞のEMTとがん幹細胞の産生に、メチルトランスフェラーゼPRMT1が必要であることを示した。PRMT1は、Smad7をメチル化し、Smad7のメチル化はTGF-betaによる乳腺上皮細胞および乳がん細胞のEMTとがん幹細胞の産生に必要である。本年度の研究では、この結果をさらに発展させ、TGF-betaによるEMTと幹細胞の産生におけるSmad7とメチルトランスフェラーゼの相互作用役割とその分子メカニズムを明らかにした。 乳腺上皮細胞において、PRMT1のノックダウンによりTGF-betaによるSmad3のリン酸化と、Smad3の直接の標的遺伝子の発現誘導が抑制された。また、長期間のTGF-beta刺激によって誘導されるEMTや幹細胞のマーカーの発現がPRMT1のノックダウンにより抑制された。さらに、生化学的な実験により、PRMT1によるSmad7のメチル化によってSmad7がTGF-beta受容体から離れることが、TGF-beta受容体によるSmad3のリン酸化とそれによるTGF-betaシグナルの活性化に必要であることを示した。 また、さらにSmadとメチルトランスフェラーゼの相互作用のTGF-betaによるEMTの誘導と幹細胞の産生における役割を解析するため、メチルトランスフェラーゼSETDB1/ESETの役割とその分子メカニズムを解明した。乳腺上皮細胞のTGF-betaによるEMTの誘導と幹細胞の産生のモデルにおいて、SETDB1のノックダウンにより乳腺上皮細胞のTGF-betaによるEMTと幹細胞の産生が促進した。SETDB1は、Smad3によるEMTのmaster regulatorであるSnailの発現誘導を抑制することでEMTを抑制することを明らかにした。
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