研究課題/領域番号 |
16K20976
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
中田 行彦 島根大学, 学術研究院理工学系, 講師 (30741061)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 時間遅れをもつ微分方程式 / 感染症の数理モデル / 周期解 / 楕円関数 / 免疫低下 |
研究実績の概要 |
本研究では、個体の免疫減衰や増強を考慮した複雑な感染症数理モデルの数理解析、並びに関連する時間遅れをもつ微分方程式の解析を行った。適当な人口集団で感染症の流行が起こると、個体レベルでは疾患状態や抗体レベルが変化する。申請者は、共同研究者の大森亮介氏(北海道大学)とホスト個体の感受性変化を記述した単純な感染症流行モデルの挙動について考察を行っている。数理モデルを用いて、感染によって引き起こされる個体の感受性変化から引き起こされる感染症流行現象について考察した。特に簡素な数理モデルを用いて、感染症の流行が起こる条件の定式化を行った。また共同研究者のYang LiuとAronによって提案された感染症数理モデルの平衡点の存在に関する結果をまとめた。 また申請者は、小児感染症の周期性を説明した時間遅れをもつ微分方程式の周期解について研究を行っている。これまでに、申請者は、ロジスティック形の非線形性をもつ分布型遅延微分方程式に対して、楕円関数を用いて表される周期2の解の存在を明らかにした。証明のアイデアは、Kaplan&York(1974)の手法を、分布型の遅延微分方程式に一般化することである。申請者は、分布型遅延微分方程式の周期解をもつ常微分方程式が構成できることに着目した。このような周期解の存在を調べた手法は、他の非線形性をもつ時間遅れをもつ微分方程式に対しても適用できる。特に、三角関数の非線形性をもつ分布型の遅延微分方程式は、非線形の振り子の運動方程式を用いて周期解を見つけることが可能であることがわかり、論文にまとめた。現在、非線形関数が奇関数である場合の時間遅れをもつ微分方程式に対して、より一般的な結果をまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究提案を行った免疫の低下や増強を考慮した感染症数理モデルに対して、いくつかの結果を得ることが出来た。これまで明らかでなかったAronの感染症数理モデルの平衡点の一意性について結果をまとめて論文の投稿を行った。またホスト個体の感受性変化を記述した単純な感染症流行モデルを考え、個体の感受性変化から引き起こされる感染症の流行条件の定式化を行った。 小児感染症の周期性を説明した時間遅れをもつ微分方程式についても、特別な場合の周期解の存在性に関する結果を得ることが出来た。これは数理的に興味深い結果であるだけでなく、現象の理解においても重要な結果であると考えている。思いがけず、本結果が元となって、申請者の一般的な遅延微分方程式の周期解の存在性や安定性の研究へと展開している。これらのことから、研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、簡素なモデルを用いて、個体の感受性変化が感染症の流行動態に影響を及ぼすことを定性的に示した。今後も、感染症の流行動態における個体の感受性変化については、疫学の知見をフォローしながら、時間スケールや空間スケールの違いに注意したモデリングやモデル解析を行いたい。このような研究から、個体の状態変化が、どのように感染症流行動態に影響しているのか定量的に解析出来ることが期待される。 本研究では、感染症の数理モデルと関連する時間遅れをもつ微分方程式の周期解についてもある一定の成果を得た。本研究では、数理解析のために、数理モデルにおける小さなパラメータを無視しているが、今後このパラメータが、周期解の存在についてどのように影響するから考察したい。また本研究で得られた周期解の安定性や不安定性については、解析的にほとんど理解されていない。今後、これらのモデルの周期解の安定性や不安定性についても研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス流行のため、2020年2月末に予定していた出張がキャンセルとなったため、キャンセル料などを支払った残りの額が残っている。今年度の研究活動に消耗品等の購入に使う予定である。
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