前年度末の本調査で得た戸別データの分析とともに、補足調査を実施:①ティエンザン省統計局での経済状況に関するヒアリング、②調査村が所在するチョガオ県農業振興室での農業・農村事情に関するヒアリング、③調査村の4村落の村落長に対する村落の社会経済状況に関するヒアリング。これらの調査から、調査村の地理的・生態環境的特徴、村落間の相違などを把握するための情報を得た。 データ分析と補足調査にて明らかになったなかで興味深かった点は次の通り。①調査村は、農業に障害となる生態環境が点在するティエンザン省のなかでも、水利施設による環境改善により、稲作生産性が最も高い地域の一つであった。2013~14年頃から、いくつかの農家の独自の判断と、行政のプロジェクト化により、ほぼすべての稲作地がドラゴンフルーツ(以下DF)等の果樹栽培に転換されている。現在、より市場価値の高い樹種への再転換が継続中である。②多額の初期投資を要するDF栽培の原資として、2000年代半ばごろまでの小規模養豚からの現金収入が有力であった。しかし小規模養豚は、現在は企業型養豚に圧倒されて衰退しており、貧困層がDFへの転換を図る際の原資を得る選択肢とは期待できない。③調査村内でここ数年で土地の長期(10年)貸借が進んでいる。土地の賃貸借や、DFとココヤシ栽培の作物選択においては、世帯内の農業労働力の規模が行動を左右している。④DF栽培は、労働集約的な農作業を要し、工場労働に劣らない賃金率で、農業労働の雇用を創出し、調査村近辺からの労働力を吸収している。⑤稲作に対するDFの経済性は明らかであるが、調査直後には、DF市場の値崩れが報じられ、農家に多くの不安を与えていた。他方で、農家内の青年層の非農業就労も進んでおり、世帯単位での生計のリスクは、他職業からの安定した収入との複合によって軽減されているように示唆された。
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