本研究プロジェクトは,「ヘッジファンド産業」と「マイクロ・ペイメント産業」に着目し,それらの分野に構造推定を持ち込みより政策に役立つ分析を行うことを目標として研究を開始しました. まず「ヘッジファンド産業」に関しては,ヘッジファンドの「解約条項」という特性に注目し,主にデータを用いた実証分析を行いました.解約条項が厳しくなると,ファンドとしての自由度が上がるため平均的にリターンを上げやすくなると予想されますが,実際にはそのような関係はヘッジファンドの投資スタイルに依存しており,いくつかの投資スタイルでは解約条項とリターンの間に統計的に有意な関係性は見出すことはできませんでした.さらに,そのような解約条項がリターンに与える影響を考慮した需要関数の推定手法を用いて分析しました.その結果から,(予想された通り)仮にリターンが同程度だとすると,投資家はより流動的な資産,つまり解約条項の設定があまり厳しくないファンド,を選好する傾向があることがわかりました. また,「マイクロ・ペイメント産業」に関しては日本のデータが入手しづらいことから,理論的な側面からのアプローチに切り替え研究を行いました.特に,近年のIT技術の発展を受けて,消費者の行った選択そのものだけでなく,選択肢の集合もデータとして観察されるようになってきています.マイクロ・ペイメントで言うならば,実際に選んだ決済手段だけでなく,どのような決済手段が焦点で受け取られていたか,という点です.そのような場合に,選択肢の集合が誤ってデータに記録されてしまった場合(データに測定誤差(measurement errors)がある場合)には推定値がどのような性質を持つのかを明らかにしました. 現在,「ヘッジファンド産業」「マイクロ・ペイメント産業」の各プロジェクトをWorking Paperとしてまとめており,順次公表する予定です.
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