研究課題/領域番号 |
16K20983
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
白木 知也 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 博士研究員 (40632352)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光受容 / 転写制御 / 視覚 / 網膜 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
脊椎動物は4種類に大別される錐体細胞をもつが、この中で青錐体の分化・成熟機構については謎に包まれていた。我々は先行研究から転写因子Six7が緑錐体の分化・成熟に関わることを見出していたが、錐体細胞に強く発現する分子としてSix7に加えてそのホモログであるSix6も同時に同定していた。そこで、この両方の遺伝子を機能欠損する変異個体を作製したところ、青と緑のオプシン遺伝子の発現がともに消失することが判明した。さらにChIPシーケンス解析から、青と緑のオプシン遺伝子のごく近傍にSix6とSix7が結合することが分かった。これらの結果から、Six6とSix7が青と緑のオプシン遺伝子の発現を協調的に制御することが明らかとなった。また、この変異個体は野生型と混在した通常の飼育環境下では成魚まで生育しないが、変異個体のみの飼育では成魚まで成長したことから、他個体との摂餌競争に勝てない可能性が想起された。そこで、幼生期の変異個体においてゾウリムシの捕獲行動を解析したところ、摂餌の成功回数が顕著に低下することが分かった。このことから青ー緑色の波長領域の光受容が生存に重要な意味をもつことが明らかとなった。一方、錐体細胞における遺伝子発現解析においてSix6とSix7は4種類の錐体細胞に共通して発現していたため、青錐体もしくは緑錐体の分化・成熟に特異的に関わる転写因子の存在が予測されていた。我々は2017年度に、新規のFOXファミリー遺伝子の変異体を作製して解析を進めた結果、この変異体では青のオプシン遺伝子の発現のみが特異的に消失することを見出していた。さらに、この新規FOXファミリー遺伝子は錐体の中でも青錐体特異的な発現を示しただけでなく、Six6とSix7の三重変異体において発現が顕著に低下していたことから、この因子こそがSix6とSix7の下流で青錐体を規定する転写因子であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規FOXファミリー転写因子の発現パターンから、この転写因子こそが青錐体の分化・成熟を規定する転写因子であることが分かった。また転写因子Six6とSix7の解析と合わせて、「ゼブラフィッシュにおいて四種の錐体タイプがどのような階層構造で運命決定されているのか」という大目標についての理解が深まり、交付申請書の実施計画に記載した内容を概ね達成することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に引き続き、新規FOXファミリー遺伝子が青錐体の分化・成熟をどう制御しているのか、その分子メカニズムに迫ることを目指す。そのために、2018年度までに樹立した新規FOXファミリー遺伝子を視細胞に強制(過剰)発現するトランスジェニック系統の解析を行う。具体的には、この新規FOXファミリー遺伝子が青錐体オプシン遺伝子の発現に十分であるか否かを調べるために、他のタイプの視細胞にこの新規FOXファミリー遺伝子を強制発現するトランスジェニック系統を用いて遺伝子発現への影響を解析する。並行して、ルシフェラーゼアッセイを用いてこの因子が青のオプシン遺伝子の発現を直接的に制御し得るかを解析する。一方、この新規FOXファミリー遺伝子の発現がどのように制御されているのかを明らかにすることも目指す。2018年度までにSix6とSix7の三重変異体ではこのFOX遺伝子の発現が低下することを見出していた。そこで、ChIP解析などを用いてSix6とSix7が新規FOXファミリー遺伝子を直接的に制御している可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規FOXファミリー遺伝子の解析が順調に進んだため、さらに新たなトランスジェニック個体を作製して詳細な解析を行うことにした。トランスジェニック個体の樹立にはある程度の時間がかかるため、解析を2019年度に引き続き行うことになった。このトランスジェニック個体の解析を行うための経費として使用する予定である。
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