研究課題/領域番号 |
16K20987
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀籠 智洋 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (10771206)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リボソームRNA遺伝子 / 核膜 / 老化 |
研究実績の概要 |
近年、修復が困難なDSBが核膜辺縁に移動して核膜孔と結合し、この結合がDNA修復に寄与していることが明らかとなった。リボソームRNA遺伝子(ribosomal DNA: rDNA)は真核生物ゲノムにおける最大の反復配列であり、最も不安定な領域のひとつである。rDNAでは、複製阻害点結合RFBに結合するタンパク質Fob1に依存して、複製フォークの停止とDNA二本鎖切断が引き起こされる。本研究では、定量的顕微鏡法およびクロマチン免疫沈降法によりrDNAと核膜との結合について解析した。rDNAにおけるDNA二本鎖切断の発生する割合が当初の予想よりも低かったことから、最大でも数百細胞から数千細胞までしか解析できない定量的顕微鏡法では核膜との結合の検出が困難であることが分かった。そこで、顕微鏡解析が困難な場合のバックアップとして計画していたChIP法に解析手段を切り替えた。rDNA反復配列を2コピーまで減らして単純化したモデル酵母株を用いることにより、rDNAが核膜孔に結合することを明らかにし、さらにその結合が複製阻害点結合タンパク質Fob1に依存していることを示した。 rDNAの核膜結合が果たす役割について調べるため、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を行った。核膜孔複合体構成因子nup120の破壊株においてrDNAが不安定になることが示されたことから、rDNAにおけるFob1依存的な複製停止とDNA二本鎖切断、それに引き続く核膜孔との結合がrDNAの安定性に寄与することが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はrDNA反復配列を2コピーまで減らして単純化したモデル系を用い、定量的顕微鏡法およびクロマチン免疫沈降法によりrDNAと核膜が結合するかについての解析を計画していた。当初の計画通り、本来150コピーの『線』として存在するrDNAを2コピーの『点』として定量的顕微鏡解析できる酵母株を作製することができた。この株では2コピーrDNA内にあるRFB一箇所のみがFob1の結合部位となり、Fob1の発現を誘導すると、その部位のみで切断と増幅が開始される。蛍光顕微鏡解析の結果、rDNAにおけるDNA二本鎖切断の発生する割合が予想よりも低かったため、定量的顕微鏡法では核膜とrDNAの結合を検出することが困難であることが明らかになった。しかしバックアップとして計画していたクロマチン免疫沈降法により、rDNAと核膜孔との結合を示すことができた。このように途中予期しない結果も得たが、バックアップの実験を通して当初の計画を遂行することができた。 また来年度に計画していた実験も一部今年度中に完了し、nup120破壊株においてrDNAが不安定になるという結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によりrDNAが核膜と結合することが示された。今後は核膜結合がrDNAの安定化に果たす役割を、特に老化細胞、および母・娘細胞の別に注目して解析する。nup120破壊株において細胞分裂寿命を測定し、rDNAが核膜孔に結合できないとき寿命におよぼす影響について解析する。またrDNA不安定性により形成されるextra chromosomal rDNA circle (ERC)の量を見る方法、そして rDNA反復配列に導入したADE2遺伝子の損失を見る方法を用いて、核膜結合がrDNAの安定性に果たす役割について解析する。 今年度取得したrDNAを150コピーの『線』として観察できる酵母株、および2コピーの『点』として定量的顕微鏡解析できる酵母株を用いて、老化細胞におけるrDNAの蛍光顕微鏡解析を行う。また、母細胞が出芽をしてから娘細胞が分裂するまでの経時的蛍光顕微鏡解析により、老化した母細胞から生まれる娘細胞のrDNAが損傷の無い状態に再生される機構について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた定量的顕微鏡での解析が難しいことが分かり、ChIP法を中心にした解析に切り替えた。顕微鏡を用いた経時的解析を行うための経費が来年度以降必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
rDNAの核膜結合を制御する因子とその老化への影響の解析に必要な経費として使用する。特に、老化細胞の経時的蛍光顕微鏡観察に使用する。
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