肺高悪性度神経内分泌癌 (小細胞癌,大細胞神経内分泌癌) は,早期にリンパ節転移や遠隔転移を来す予後不良の癌である.細胞接着因子である Cell Adhesion Molecule 1 (CADM1) は,非小細胞肺癌の癌抑制遺伝子として同定され,食道癌,胃癌,肝細胞癌,膵癌,前立腺癌,子宮頸癌など,多くの進行癌で発現が低下している.一方で,成人T細胞白血病では発現が増加しており,腫瘍細胞の浸潤や腫瘤形成など,癌遺伝子としての機能を有することが分かっている.近年,肺小細胞癌の細胞株を用いた研究で,CADM1 の発現が亢進していることが示された.そこで,本研究では,(1) 手術検体を用いて,CADM1 陽性率や臨床病学的特徴を明らかにすると共に,(2) 細胞株を用いたモデルを作製した. (1) 72 例の手術検体を用いた病理学的な解析では,免疫組織化学的に CADM1 が肺高悪性度神経内分泌癌の約 70% に発現していること,CADM1 陽性例はリンパ節転移が有意に多いこと,予後不良因子であることを見い出した.(2) 細胞株を用いた実験では,大細胞神経内分泌癌の特徴を有すると考えられる VMRC-LCD を親株として,CRISPR/Cas9 システムを用いて CADM1 の2 ヶ所の exon を標的とした KO 株を作製した.親株や 2 種類の KO 株をヌードマウスに皮下移植したところ,腫瘍形成能や増殖能に有意差は見出せなかった.また,小細胞癌の細胞株である NCI-N417 に CADM1 遺伝子を導入し,ヌードマウスに同所 (肺) 移植したところ,腫瘍径に有意差は見られないものの,CADM1 発現株ではリンパ節転移が有意に増加し,実験モデルの作製に成功した.今後,肺高悪性度神経内分泌癌における CADM1 の機能の詳細な解明につながると考えられる.
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