研究課題/領域番号 |
16K20995
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 道生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (10647655)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | バイオミネラリゼーション / アコヤガイ / 方解石 / キチン / 炭酸カルシウム |
研究実績の概要 |
アコヤガイ貝殻稜柱層に含まれる有機物ナノファイバーと結晶の欠陥との関連を明らかにするために、アコヤガイの稜柱層より有機物ナノファイバーを抽出する方法の検討を行った。稜柱層のみを貝殻からニッパーを用いて単離し、これを次亜塩素酸ナトリウム液に浸けて一晩放置した。その結果、方解石の結晶のみを取り出すことに成功した。この方解石の内部に存在する有機物ナノファイバーはキチンを主成分としていることがIRによる解析から判明した。さらに、このキチンを主成分とする有機物ナノファイバーから変性剤と還元剤を用いて抽出を行い、可溶性成分との比較を行うことにより、特異的に存在するタンパク質を明らかにした。LC-MS/MSによる解析の結果、キチン分解酵素が有機物ナノファイバー特異的に含まれることを初めて明らかにした。キチン分解酵素はキチンを分解する働きがあるため、生体防御や消化などに利用されることは知られているが、このような生体鉱物の構造中に含まれることはこれまでほとんど知られていなかった。以上の結果から、キチンの有機物ナノファイバーの性状に関して、キチン分解酵素が何らかの役割を果たすことが示唆された。そこで申請者は、このキチン分解酵素の働きの詳細をさらに調べるため、キチン分解酵素の阻害剤をアコヤガイに注入し、貝殻稜柱層に与える影響をin vivoで解析することを開始している。さらに、キチンゲルを用いたin vitroの炭酸カルシウム結晶形成実験を行うことで、キチンファイバーと炭酸カルシウム結晶、キチン分解酵素の関係を明らかにする研究を続けて行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
稜柱層の方解石結晶のみを取り出す方法を見出すことに成功し、内部のナノファイバーのみを抽出し、その成分の同定を行うところまで到達している。さらに機能解析を行うために、in vivoおよびin vitroの機能解析を行っており、これは当初の予定通りであると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
阻害剤を用いたin vivoでの研究を行うことで、キチン分解酵素の貝殻稜柱層内での役割を明確にしたいと考えている。さらに、in vitroでの炭酸カルシウム結晶形成実験を行い、キチンファイバーとキチン分解酵素の関係を、電子線、X線を用いた解析により評価する実験も同時に行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験が順調に進み、また2016年度に他の予算も新たに取得することが可能であったことから、2017年度の予算と合わせて予算を執行した方が効率的に予算を運用できると考えたため、次年度での使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
主には試薬消耗品などの購入に使用したいと計画している。
|