研究課題/領域番号 |
16K20998
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平山 尚志郎 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80548280)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質品質管理 / 神経変性疾患 / ユビキチン / タンパク質凝集 |
研究実績の概要 |
ユビキチン化タンパク質や構造異常タンパク質の凝集体形成の場としてAggresome、JUNQ(Juxta nuclear quality control compartment)、IPOD(Insoluble protein deposit)が知られているが、いずれも核内ではなく細胞質に生じる構造体であり、細胞にとって防御的な制御された機構である事がわかってきた。また、多くの神経変性疾患において構造異常タンパク質が細胞質に凝集体を形成することが観察される。しかし、なぜこれらのタンパク質が核ではなく細胞質において凝集体を形成するのか、そのメカニズムと生理的意義は依然として不明である。本研究では、神経変性疾患に共通して観察される、細胞質におけるタンパク質凝集体形成に関して、構造異常タンパク質の核外排出機構と細胞質における凝集体形成機構に焦点を置いて解析し、その分子実態および生理的意義を明らかにすることを目的としている。 本研究において、申請者らは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因となる変異型SOD1が、哺乳類培養細胞と酵母において、核から細胞質に積極的に運び出されていることを明らかにした。さらに、出芽酵母の欠損株プールを利用して、変異型SOD1の核外排出に異常をきたす欠損株の取得を行ない、ユビキチンリガーゼが変異型SOD1の核外排出に関わること同定した。また、このユビキチンリガーゼは変異型SOD1をユビキチン化し分解に導くだけでなく、ユビキチン化が変異型SOD1の核外排出のシグナルとなる可能性を新たに解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(理由) 出芽酵母の欠損株プールを利用して、変異型SOD1の核外排出に異常をきたす欠損株の取得を行ない、ユビキチンリガーゼHul5が変異型SOD1の核外排出に関わることを明らかにすることができた。また、Hul5によるユビキチン化は変異型SOD1をプロテアソーム分解に導くだけでなく、変異型SOD1の核外排出のシグナルとなる新たな可能性が示された。これまでユビキチン化はプロテアソーム分解だけでなく、DNA修復やシグナル伝達に関わることが知られているが、今回新たにユビキチン化が構造異常タンパク質の核外排出に関わる可能性を示すことができたのは進展であった。 構造異常タンパク質が細胞質に蓄積した場合と核に蓄積した場合にどちらがより毒性を発揮するのか、はっきりしたことはわかっていない。本研究によって、Hul5欠損酵母株は、核に蓄積するように改変した変異型SOD1の発現に対して感受性になることが明らかになった。この結果から、構造異常タンパク質は核に蓄積した場合により強い毒性を発揮すること、Hul5がユビキチン化による構造異常タンパク質のプロテアソーム分解と核外排出の両方を促進することで核内環境を整えている可能性が示された。この結果は期待以上の進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
酵母においてHul5が構造異常タンパク質の分解と核外排出を担うことを明らかにしたが、哺乳類細胞においても同等のユビキチンリガーゼが構造異常タンパク質の分解と核外排出を担うのかノックダウン実験を行う。さらに、変異型SOD1のみならず他の構造異常モデルタンパク質も同様のメカニズムで核内から運び出され細胞質において凝集体を形成するのか複数のモデルタンパク質を使用して実験を行う。とくにユビキチン化が細胞質における凝集体形成を促進し、核における凝集体形成を抑制しているのか、哺乳類細胞において酵母細胞と同様の機構があるのか明らかにするためユビキチン化阻害剤を使用して実験を進める。
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