研究実績の概要 |
Lu3Fe5-xCoxSixO12(LFCS)薄膜について、これまでにスピングラス挙動(直流磁化率温度依存性における磁場中冷却-零磁場冷却の分岐、交流磁化率温度依存性におけるカスプの周波数依存性、熱緩和を記憶するメモリ効果)を報告してきた。当該年度では補足実験として交流磁化率の温度依存性について、直流磁場成分をゼロとした条件で再測定を実施した。その結果、x=0.1~0.5にCo, Siを置換した試料ではフェリ磁性―常磁性の相転移温度において周波数分散が見られ、室温以上の温度域(290 K~360 K)でもスピングラス挙動を示すことが示唆された。スピン波の伝搬長を決めるダンピング定数の温度依存性については、これまで低温で顕著な増加を見出していたが、不純物モデルの指数関数で表現できることを確認した。これは、「熱」という外場によってスピン波と逆スピンホール電圧を制御できることを示している。ダンピング定数から算出されるスピン波伝搬長は置換量x=0, 0.1, 0.5の増加に従い、2 μm, 700 nm, 200 nmと減少する。スピン波発生・検出を可能とするコプレーナ線路の一般的なデバイスサイズは数μmであるため、このままではスピン波デバイスへの応用は難しい。しかしながら、薄膜成長の際の単結晶基板を適切に選択(基板と薄膜のミスマッチを小さくする)ことで伝搬長は約一桁増大することが明らかとなり、スピングラス特性とスピン波伝搬を両立することは可能であることが見積もられた。
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