研究実績の概要 |
本研究では、スピン波検出に適したスピンクラスターグラスの作製を目的として、低スピンダンピングを示すLu3Fe5O12(LuIG:ルテチウム鉄ガーネット)に対して非磁性Siおよび磁気異方性CoをFeサイトに置換することでランダムネスとフラストレーションを導入したLu3Fe5-2xCoxSixO12(LFCS)単結晶薄膜を作製した。Co, Si置換量の増加に伴い(x=0.5)、スピン凍結温度190-220 Kのスピングラス挙動(直流磁化率の磁場中冷却-零磁場冷却の分岐、交流磁化率温度依存性におけるカスプの周波数依存性)が見られた。さらにスピングラスの特徴であるメモリ効果について調査を行い、120-180 Kのエージング温度を記憶する熱来歴記憶・多値記憶を実証した。これは多谷ポテンシャル構造によって多数の準安定状態が存在することを示唆している。さらにCo置換による効果として、垂直磁気異方性が誘起されることが確認された。スピン波特性については、強磁性共鳴によるスピンポンピングの結果、Co, Si置換量の増加(x=0→0.5)に従い、ダンピング定数は0.009→0.088と増加し、それから見積もられるスピン波伝搬長は2μm→200nmに減少する。Pt/LFCSヘテロ構造を作製し、x=0.1以下の試料について明確な逆スピンホール電圧(VISHE)の計測に成功した。さらに温度依存性においてネール温度付近でVISHEは最大値を示すことを明らかにした。 最終年度においては、補足実験を実施した上で考察を加え、VISHEの温度依存性はスピン凍結温度よりも高温でスピンのゆらぎを反映した結果であることを示唆した。以上を総括し、論文報告している。今後の展望として、応用上、素子を小型にするため、コプレーナ線路をスピン波の励起・検出に用いることによるデバイス化を進めている。
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