本研究は、自然資源利用をめぐる地域固有の知識・技能を、有効に地域の将来世代に継承する方法を、その記録から活用まで総合的に検討することを課題とした。 山梨県山中湖村、岩手県西和賀町、福井県大野市、宮崎県山間部を調査地として、自然資源の採取および加工についての記録を映像、GPSによる位置データ、静止画、聞き取り調査、各種文献調査など各種の方法で行なった。特に映像記録については、編集過程を通じて、従来の主要な記録媒体である書籍等のテキスト記録と比較して、その特徴を検討した。その結果、映像記録は、撮影中にインフォーマントへの適切な問いかけを交えることにより、より効果的にインフォーマントの行動規範やノウハウを伝える素材となる事がわかった。映像記録は、こうした大きな強みを持つ一方で、静止画に比べて対象資源が判別しにくい、知識を継承したい者がオンデマンドで参照する事が難しい、という難点も指摘できた。 映像記録の強みを生かす、すなわち、行動規範やノウハウを効果的に示す記録は、持続可能な資源利用を担保する採取行動を伝承するのに有効であるだけでなく、採取資源を消費者に販売する場合に、倫理的な消費を求める消費者層に有利に訴求する素材として活用しうる可能性が示唆された。このほかにも、資源採取および、その加工に関する記録は、地域の固有性を重視する地域おこし事業にも活用しうる。これらを目的とする場合は、単に映像記録に頼るだけでなく、既存の文書媒体の記録も十分に参照しつつ、各種の記録を組み合わせることによって地域の固有性を効果的に示す必要がある。また、自然体験に乏しい子供を対象にした地域文化の継承に関する需要があることも明らかになったが、これに適する記録方法およびその活用方法については、本研究期間では検討できず、今後の課題として残された。
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