本研究課題では申請者らが開発した不純物含有の少ないGaInNAs半導体試料に対し意図的に水素付加することによって、従来研究では困難であった外因不純物の影響をなくし、GaInNAs結晶中に形成される窒素水素結合と半導体物性との相関を実験的側面から評価することを目的としている。 前年度得られた水素付加・脱離と太陽電池特性(キャリア収集プロセス)との相関について、本年度は容量電圧測定およびアドミッタンス分光測定を用い詳細な評価を行った。水素付加前と比較して付加処理後ではキャリア収集特性の劣化が見られたが、この要因としてアンドープGaInNAs層中のキャリア密度が増加すること、並びに深準位欠陥が生成されることを明らかにした。さらに窒素雰囲気下でのアニールプロセスによる結晶中からの水素原子の脱離と、キャリア密度および深準位欠陥の低減との相関を確認することができた。 また、前年度から引き続きFTIR法によるN-H結合形成に起因した赤外吸収評価の検討を進めた。水素付加の有無によらずN-H結合に起因した吸収スペクトルの有意な変化は見られなかった。基板層の薄化やATR配置による赤外シグナルの増強も試みたが同様であった。このことから、本研究で実施した不純物含有の少ないGaInNAs結晶への水素付加手法においては、従来のMOCVDやCBE法で製膜されたGaInNAs結晶中で報告されるN-H結合密度と比較して、FTIR法の検出感度以下と著しく低いことが示唆される。現時点においてはN-H結合の有無に関してこれ以上の言及は難しいが、今後の課題として、付加する水素量をさらに増加させた場合の検討や、他製膜法との比較を進めることにより結晶中で水素がどの様な状態で取り込まれているかを明らかにすることは意義深いものであると考えられる。
|