研究課題/領域番号 |
16K21011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
肥田 剛典 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60598598)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人的被害 / 振動台実験 / フラジリティカーブ / 固有振動数 / 減衰定数 / 姿勢維持方略 |
研究実績の概要 |
本年度は、人体の地震応答解析モデル構築に向けた基礎的検討を行った。逐次部分空間法を用いて、人体の時々刻々の伝達関数(時変周波数応答関数)および減衰定数を求め、人体の地震応答特性についてさらに考察を行った。その結果、地震の揺れの最中における座位時の人体の固有振動数は、加振中の時々刻々の変動や個人差が見られず、常に1 Hz程度であることが分かった。また、人体頭部の座面に対する応答倍率および減衰定数は、入力波の特性に応じて時々刻々変化し、個人差も顕著であることが明らかとなった。 さらに、人間の地震後活動可能性の評価に向けた人体の地震時挙動を検討するため、振動台搭乗実験を実施した。その結果、人体の弱軸方向の入力と足を踏み出す距離に正の相関が見られた。この関係および人間の踏み出す距離の最大値を元に転倒評価モデルを構築し、人間の転倒フラジリティ評価を行った。評価するにあたり、偶然的不確実性として人間の立位方向や、足を踏み出す時の姿勢、踏み出す方向、人間の強軸方向入力の影響を、認識論的不確実性として回帰式の統計的不確実性を考慮した。 人間の地震後活動可能性評価において、転倒はあくまで活動低下の要因であり、他の要因や転倒から負傷に至る過程の評価など、今後更なる研究が求められる。また今回の転倒評価対象は数ある地震時の転倒状況の1つに過ぎず、非常に限定的な条件を設定して評価を行っている。実験においても2名の被験者に対して2種類の入力を行ったのみであり、得られた結果から人間の被震時の動特性について普遍性を述べるには至っていない。また現実と実験の差や他の適応不可要因の存在、転倒クライテリアの不確実性など転倒評価を行う上で考慮されていない事柄も多い。提案手法を元に他の被震時の転倒状況を対象にしつつ、より詳細な検討を行うことが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、振動台搭乗実験を実施し、モーションキャプチャーによって人体各部位の変位波形を抽出した。その変位波形から加速度を評価し、それを用いてシステム同定を行い、人間の固有振動数や減衰定数を評価し、人体の振動特性を把握した。当初、本年度は人間の地震応答解析モデルを構築する予定であったが、実験データを検討した結果、人間の地震応答解析モデルを構築するためには、さらに多くの地震時人間挙動のデータを蓄積する必要があることが分かった。そのため、人間の地震応答解析モデルの構築は次年度の課題とし、本年度は、当初平成29年度の課題としていた人間の地震時転倒確率評価に関するフラジリティカーブを作成することとした。計画が若干変更となったものの、振動台搭乗実験の実施やデータの分析、人間の地震時転倒確率評価手法の構築に向けた検討は着実に進行しており、本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、人間の地震時挙動に関するデータをさらに蓄積するため、平成28年度に実施した振動台搭乗実験と同様の実験を行う。この実験結果に基づいて、フィードバック制御モデルに基づく人間の地震応答解析モデルを作成する。また、人間は非線形性の強いシステムであることを考慮し、より詳細な解析モデルを作成するため、近年人工知能の分野で再注目されている機械学習法であり非線形システムの同定に長けたニューラルネットワーク等の導入も検討する。さらに、構築した人間の地震応答解析モデルを用いた巨大地震時のシミュレーション解析を行い、人間の転倒時負傷確率に関するフラジリティカーブを作成する。 平成30年度には、前年度までに構築された人間の地震応答解析モデルとフラジリティカーブを用い、さらに既往の研究において提案されている家具の転倒率評価手法を導入し、人間と家具を含めた室内の状況をコンピュータ内で再現した巨大地震時の状況をシミュレートするシステムを構築する。構築されたシステムに対し、様々な地震動を入力する。入力波にはこれまで経験していない超巨大地震の波形も用いることとし、想定を超えた揺れを経験した際の人間の地震時挙動と負傷可能性を検討する。
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