研究課題
日本の地域における木材の炭素排出削減効果(炭素貯蔵効果、材料代替効果、エネルギー代替効果)の将来推計モデルを開発するにあたり、当該年度は、木材の材料代替効果およびエネルギー代替効果を評価する機能を構築した。材料代替効果については、木材製品を非木材製品と代替することによって、製品材料の生産・加工等に伴う化石燃料消費由来の炭素排出削減量を評価した。具体的には、建築分野は非木造から木造、土木分野はセメント杭・金属製防護柵・コンクリート製遮音壁から木杭・木製防護柵・木製遮音壁、家具分野は金属製から木製への代替を想定した。建築、土木、家具に関わる各産業への聞き取り調査と文献調査を行い、各分野における木材・非木材製品使用量および製品材料の生産・加工時の炭素排出量を把握し、材料代替に伴う炭素排出削減量を評価した。エネルギー代替効果については、丸太生産時に発生する林地残材、木材製品加工時に発生する加工残材、木材製品使用後に発生する廃棄木材において、材料への再利用量を確保した上で、エネルギー利用を検討した。さらに、重油等の化石燃料と代替することによる化石燃料由来の炭素排出の削減量を評価した。エネルギー利用方法は、木材チップボイラーによる熱供給を行い化石燃料ボイラーと代替することを想定した。熱供給施設への現地調査を行った上で、木材チップと化石燃料の発熱量や熱効率の違いを考慮しながら化石燃料代替量を算定した。さらに、化石燃料の生産・加工時の炭素排出量を把握し、エネルギー代替に伴う炭素排出削減量を評価した。これらの研究成果をまとめ、学術論文発表および書籍発表を行い、研究成果を社会に発信した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度における研究計画を達成し、学術論文および書籍による研究成果の発表も行ったため、おおむね順調に進展していると判断した。
今後は、引き続きモデルの開発を進めることとし、特に炭素貯蔵効果に着目し、国産材の炭素貯蔵量や廃棄木材の最終処分地における炭素貯蔵量を取り扱う機能を構築する。国産材の炭素貯蔵効果については、丸太生産・輸入から地域間を移動し木材製品利用に至る木材フローにおいて、国産丸太由来と輸入丸太由来を区別して追跡し、国産丸太由来の木材製品ストック量とその炭素貯蔵量を明示する。最終処分地の炭素貯蔵効果については、木材製品ストックから排出される使用済み廃棄木材において、木質ボード・再生紙等の既存のリサイクル産業の活動を担保するために、材料としての再利用を優先し、木材製品ストックへの再投入量を決定する。その上で、エネルギーとしての利用量を検討し、その残りを最終処分による地中への埋立量とする。日本の最終処分場における廃棄木材の分解速度に関する現地調査を行うとともに、先行研究も参考にしながら、廃棄木材の炭素貯蔵量の時間変化を推計する。さらに、開発したモデルを日本の各地域に適用し、将来推計を行う。将来シナリオは、国内丸太生産、木材製品利用、エネルギー利用といった複数の観点から設定する。林業、木材産業、建築・土木・家具産業、木質エネルギー産業への聞き取り調査と専門家・有識者との研究会を行う。それにより得られる情報を参考にして、国内丸太生産は、現状維持、緩やかな伐採増加、日本政府の森林・林業基本計画等のシナリオ、木材製品利用とエネルギー利用は、現状維持、緩やかな利用推進、積極的な利用推進等のシナリオを想定し、モデルへ入力するパラメータを決定する。設定した将来シナリオに沿って日本の各地域における木材の炭素貯蔵効果、材料代替効果、エネルギー代替効果を2050年まで推計し、総合的な炭素排出削減効果を定量的に明らかにする。さらに、各地域の特徴を考慮しながら、木材利用による温暖化対策の望ましいあり方を提案する。
当該年度の5月~10月の期間に研究を一時中断したため、この間に行われた国際学会・国内学会への参加を見送った。一方、次年度に予定している廃棄物最終処分場への現地調査の回数を増やす必要性が生じたこと、また、次年度に発表予定の論文数を増やしそれに伴って論文掲載料が増える見通しであることから、次年度使用額が生じることとなった。
次年度に予定している廃棄物最終処分場への現地調査の回数を増やすため「旅費」費目の増額を計画している。また、次年度に発表予定の論文数を増やす見通しとなりそれに伴って論文掲載料も増えるため「その他」費目の増額を予定している。
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木材学会誌
巻: 63 ページ: 41-53
http://doi.org/10.2488/jwrs.63.41
Journal of Forest Research
巻: 21 ページ: 211-222
10.1007/s10310-016-0527-4