研究課題
今年度は文献・新聞調査や事例調査を実施した。文献・新聞調査においては、おもに障害者の表現活動について取り上げた1991年から2015年の新聞記事をリスト化し、テキストマイニングの処理を行う新聞記事内容分析を行ったことで、記事の傾向を分析した。結果、記事件数の増加に伴い「純粋性」や「オリジナリティ」を表す形容詞・形容動詞等があわせて増加していることがわかった。このことは、障害者の表現活動を社会に伝える際に「純粋言説」が用いられることで、「障害/健常」という境界線が動かないままに安直に理解してしまう危険性があることを示唆している。その対抗言説としてどのような表現を用いるべきかは量的調査では抽出し難かった。そのため今後の質的調査によるトライアンギュレーションの視座が必要であることがわかってきた。以上の研究成果は日本文化政策学会で発表した。また事例調査においては、日本全国より3つの活動について注目し現状調査を実施した。福祉施設を運営するNPO法人の事例では「表現未満」という言葉を用い、表現活動として一般に捉えられる以前に起こっているクリエイティヴィティに着目していた。ろう者による音楽活動とそれを取り上げた映画制作の活動では、ある立場によっては表現と捉えられているものが、異なる立場には表現と捉えられないという状況を生み出していた。身体障害者と高齢者による演劇活動では、異なる立場の人々による「共創」が、それぞれの持つディスアビリティを表現の場に昇華させるプロセスを見ることができた。これらの事例について特徴的な要素を抽出し次年度以降の研究につなげていくことができた。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者の異動に伴う研究環境の変化から、研究計画(対象とするフィールド等)を修正せざるを得なかったが、研究目的からはずれることはなくおおむね進行している。特に研究の目的に掲げた障害者の芸術表現活動についての現状調査とマッピングについては、異動先である理系大学の教員の知見を借りながら、当初想定していたよりも順調に研究が進み、学会でその成果を発表することができた。「共創的表現」についての現場ヒアリングも、複数の福祉団体との連携により状況把握が進み、共同でフォーラムを開催するなど研究内容の公開に向けた準備を進めている。一方研究内容を公開するウェブサイト等の制作は遅れているため、次年度以降の課題としたい。
次年度以降は、今年度の研究成果をもとに論文執筆・掲載をはかっていく。それとともに、フィールド調査でわかってきた知見についてさらに深めるべく、複数の質的研究手法を用いながら横断的に研究を行っていくことで、「共創的表現」のありようを言語化し、理論と実践の往還を目指す。またそれと同時に、研究内容の一般公開にも努める。
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芸術批評誌リア
巻: 38 ページ: 30-34
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K006290/index.html