本研究は、初任教師、中堅教師、熟練教師という経験年数の異なる複数の教師の同一指導案に基づいた授業実践の比較を通して、音楽科教師の熟達化の諸相を明らかにすると同時に、そのプロセスを解明することを目的としている。 4ヵ年計画の初年度にあたる平成28年度は、①「熟達化」に関する研究動向の調査、②教師たちの現在に至るまでの実践記録の集積と分析、③経験年数の異なる6名の教師による授業実践の比較検討を行う予定であった。 ①に関しては、認知科学、認知心理学、教育心理学等の領域での「熟達化」に関する知見を集め、「定型的熟達者(routine expert)」と「適応的熟達者(adaptive expert)」の概念整理を行うことに努めた。また、音楽科教師の熟達化の諸相やプロセスを記述するための方法論の示唆を得ることを試みた。 ②に関しては、特に熟練教師を対象に、『教育音楽』『音楽鑑賞教育』等の雑誌、過去の研究授業の記録、研究報告書、紀要等から実践記録を収集し、過去の実践に関して聞き取り調査を行なった。 ③に関しては、対象であった6名の教師のうち、初任教師1名は学校側の都合により、中堅教師1名は休職のため、熟練教師は退職のため、今年度の聞き取り調査及び参与観察は難しい状況となった。そのため、本研究全体の研究体制及び研究計画の立て直しを図る必要に迫られた。そこで、フィールドワークの範囲を拡大するために、公開授業、校内研究、教師の集まる私的な勉強会等に参加し、新たに小学校教員3名と研究協力体制を築き継続的な授業研究を行なえる体制を整えた。その他の3名の初任教師、中堅教師、熟練教師に関しては、小学校4年生の歌唱共通教材である《もみじ》を教材とした授業の参与観察及び、授業構想、省察に関する聞き取り調査を行ない、3名の教師による授業実践を比較検討した。
|