本研究は、初任教師、中堅教師、熟練教師という経験年数の異なる複数の教師の同一指導案に基づいた授業実践の比較を通して、音楽科教師の熟達化の諸相を明らかにすると同時に、そのプロセスを解明することを目的としている。4ヵ年計画の2年目にあたる平成29年度は、①平成28年度より継続している「熟達化」に関する研究動向の調査、②「熟達化」の概念の再検討及び、分析方法の見直し、③経験年数の異なる教師による授業実践の比較検討を行う予定であった。①に関しては、教師の熟達に限らず、さまざま専門家における熟達の諸相について、Dショーンによる一連の先行研究をより示唆を得た。また、他教科(国語、社会、体育)の教師に関する研究から音楽科教師に応用できる知見を得ることができた。②に関しては、S.マロック、K.トレヴァーセンら(2018)の研究から「教室談話」という観点から授業実践の比較を行う示唆を得た。また、藤岡ら(1999)等の先行研究から、「授業デザイン」という観点からも分析方法の示唆を得た。③に関しては、歌唱領域と鑑賞領域から経験年数の異なる教師による授業実践のフィールドワーク、授業構想・授業実践・授業省察に関するインタビューを行った。そして、それらを「授業デザイン」という観点から比較を行った。その結果、「教授方略」において経験年数による違いが見られた。経験年数の多い教師は、感覚的で曖昧な音・音楽というものを子どもと共有するために、自身の身体感覚を顧みつつ、教師が持ちうる限りの指導方略を用いて自分が目指そうとする音を説明していた。また、その指導を受けた子どもの演奏と、自分の投げかけた指導とすり合わせ、新たな指導方略を模索しているプロセスが浮かび上がった。 平成30年度では、「教室談話」からの分析も試みる。
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