研究課題/領域番号 |
16K21031
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
熊谷 啓 東京工業大学, 理学院, 特任助教 (80761311)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光触媒 / 二酸化炭素還元 / 人工光合成 / 光電気化学 / 金属錯体 / 半導体 |
研究実績の概要 |
本研究「光電気化学的アプローチによる金属錯体‐半導体ハイブリッド光触媒の開発」では、可視光を利用した二酸化炭素還元反応を駆動するハイブリッド光触媒を電極化することで、光電気化学的な手法を用いた開発と評価を行っている。 今年度は、主にRu(II)-Re(I)二核錯体とp型半導体CuGaO2からなる金属錯体のみが光励起するシンプルなハイブリッド光触媒電極を主な対象とし、電極の物性・界面構造を光電気化学的手法によって、新規かつ高機能な光触媒電極の開発とその活性に影響を与える因子の定量的な評価を行った。更に半導体光触媒電極(TaON)との組み合わせによる二段階励起系への応用を検討した。 p型半導体であるCuGaO2粉末を用いた金属錯体に電子注入可能な新規半導体電極を開発し、Ru(II)-Re(I)二核錯体光触媒と複合化することで光触媒電極を調製した。この電極は、CO2飽和水溶液中、錯体光触媒を選択的に励起する可視光照射下において光還元電流を生成した。この応答は光励起した錯体光触媒へ半導体電極を通じて電子が注入される過程と考えられ、電位制御下15 hの可視光照射の結果、二酸化炭素還元生成物であるCOの触媒的な生成を確認した(錯体光触媒に対して触媒回転数125)。この光触媒電極の光応答開始電位は、同様の錯体への電子注入の報告があるNiOを用いたものに比べ、およそ0.4 V貴な電位を示した。この結果は、電気化学インピーダンスによって求めた水溶液中での半導体電極のフラットバンド電位と同様の傾向であり、半導体材料の価電子帯位置が電子注入の際の電位の損失に影響を与えることが示唆された。更に、この光触媒電極とTaON半導体光触媒電極とを組み合わせることによって、金属錯体と半導体の両者が可視光励起することによる水を電子源としたCO2還元反応を達成した(錯体ベースの触媒回転数22)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、二段階励起型の金属錯体‐半導体ハイブリッド光触媒について、いまだ達成されていない可視光を利用した水を電子源とした人工光合成系の開発指針となる知見を得ることを目的としている。 本年度においては、金属錯体のみが光励起する光触媒電極系において、材料の物性や界面構造などが、電子移動プロセスやその結果の触媒活性に及ぼす影響を光電気化学的な手法を用いて明らかにすることを検討した。研究実績の概要で述べた通り、CuGaO2を用いた新規の半導体電極を開発し、既報のNiO電極と対比する形で種々の検討を進めることで、電子移動プロセスに関する定量的な情報を得、更に従来のものを上回る触媒活性を実現した。従って目的としていた計画を遂行できたと考える。この上で、この電極を用い、ここまでの一段階励起型の半反応の知見を基に、水の酸化反応に活性な半導体光触媒電極との組み合わせによる、外部バイアスを必要としない可視光のエネルギーのみを用いた水を電子源とした二酸化炭素還元反応を試みこれを達成した。これは当初次年度の計画であったことから、本年度の検討がそれに先駆けて十分に進展したとみなした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、ここまでに得られた錯体-半導体間の界面構造制御とその光電気化学的な解析による電子移動プロセスの知見について、触媒反応の活性・選択性に影響する因子の定量的な理解を深め、複合系における高効率化の指針を得る。具体的には、(1)半導体・錯体双方における新規材料・組み合わせの検討、(2)界面への異種材料修飾、加えて(3)解析手法の精度向上 を行っていく。 また、現在までの進捗状況で述べた通り、当初の計画に先駆けて、金属錯体が光励起する光触媒電極と酸素生成用の半導体光触媒電極と組み合わせた、二酸化炭素還元と水の酸化をつないだ二段階励起系を既に達成している。このような全反応系については、二段階励起型の集積化を見据え(4)還元・酸化反応の反応場が近接した環境での検討 を進める。 これらの取り組みを通じて、金属錯体-半導体ハイブリッド光触媒の課題を明らかにし、水を電子源とした系の設計指針を示すことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた出張のための旅費・論文投稿時の英文校正等のためのその他の項目の支出を、他の予算や補助(大学のプログラム等)で補うことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の遂行のための次年度以降の物品費、あるいは成果の公表のための出張旅費等として使用していく予定である。
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