研究課題/領域番号 |
16K21044
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
山口 雄大 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特任助教 (40726080)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 高齢者結核 / 血清マーカー |
研究実績の概要 |
社会の高齢化を背景に増加する高齢者結核は,そのほとんどが過去の潜伏感染からの結核菌の増殖による再燃で発病に至る。HIV感染者など免疫不全者における結核と異なり、高齢者結核の発病へと至る機序は未だ明らかにされていない。宿主に感染した結核菌は宿主の免疫機構とは独立して存在する、未知の機序による増殖抑制を受けており、その破綻こそが高齢者結核発病に関与しているのではないかと考えた。 そこで、申請者はウシ血清では認められない、ヒト血清固有の結核菌に対する増殖抑制効果を見出した。これはヒト血清には結核菌の増殖を抑制する因子が存在することを示唆しており、この因子の同定はハイリスク患者に結核発症を抑制する新たな治療法の開発や、高齢者結核の発病予測診断法の開発などが見込まれる。 当初、申請者は真核生物において、細胞間情報伝達の新たな担い手として知られるエキソソームに注目した。近年の研究で抗酸菌を含め、細菌もエキソソーム様の細胞外小胞(メンブレンヴェシクル)を分泌することが知らており、細菌間や宿主-細菌間での情報伝達に関わっているという報告がある。そこで、エキソソームが宿主から細菌への情報伝達を行うことで、血清による菌の増殖抑制を起こしているのではないかと仮説を立てた。健常者から採取したヒト血清を超遠心により、血清由来エキソソームとエキソソーム除去血清とに分けた。ウシ型結核菌弱毒株を血清由来エキソソームまたはエキソソーム除去血清の存在下で培養したところ、エキソソームではなくエキソソーム除去血清に結核菌増殖抑制効果が認められた。ヒト型結核菌でも同様にエキソソーム除去血清により増殖抑制が認められた。 現在、エキソソーム除去血清由来の抗結核菌分子を同定するため、血清タンパク質に焦点を絞り解析を進めている。限外濾過など血清タンパク質の分画も駆使して、新規の抗結核菌分子の同定を図る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常者血清を採取し、超遠心法で血清エキソソームとエキソソーム除去血清とに分離した。まず、精製したエキソソームがBCG菌体へと取り込まれるか否かを検討した。エキソソーム存在下で培養した菌体を回収し、菌体タンパク質を抽出してウエスタンブロットでエキソソーム・マーカータンパク質の発現を確認した。菌体タンパク質からは、エキソソーム・マーカーの発現が確認され、血清エキソソームが抗酸菌内に取り込まれていることが示唆された。 次に、ウシ結核菌弱毒株BCGをエキソソームまたはエキソソーム除去血清存在下で培養し、その増殖を評価した。当初の予想と異なり、血清エキソソームには菌の増殖抑制効果は認められず、エキソソーム除去血清において菌の増殖抑制効果が認められた。同様の実験をヒト結核菌でも行った。BCGでの実験と同じく、菌の増殖抑制作用を有するのは血清エキソソームではなくエキソソーム除去血清であることが確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度では、エキソソーム除去血清が結核菌の増殖抑制効果の機序を詳細に検討する。血清成分の抗菌活性物質としては補体がよく知られている。非働化血清や補体の添加時の菌の増殖を評価し、補体の関与を検討する。また、限外濾過で血清成分を分子量毎に分離し抗菌活性を有する分画を同定し、抗結核菌物質の同定を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では本年度に次世代シーケンサーを使用する予定であったが、次年度の実行に予定を変更した。
|
次年度使用額の使用計画 |
ヒト血清に対する耐性BCGまたは結核菌を作成し、次世代シーケンサーでゲノム解析を行う。解析結果からヒト血清による抗結核菌作用の機序に迫る。
|