研究課題/領域番号 |
16K21054
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
丸本 由美子 金沢大学, 法学系, 准教授 (60735439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 加賀藩 / 非人 / 困窮者 |
研究実績の概要 |
加賀藩領内を扱った刊行済み関連史料を一通り確認し、それらの整理作業と並行して未刊行史料のチェックを進めている。 この作業の過渡的な小括を、2016年6月に刊行した単著『加賀藩救恤考』の第2部序章に「非人小屋での生活」として盛り込んだ。当該業績では、加賀藩の困窮者扶助施設「非人小屋」や救恤・御救に直接言及する従来から参照されてきた史料に加え、未刊行の算用場(藩の財政を管轄する役所)の業務記録から、非人小屋の運営にかかる経費の記録を確認した。 これらの、先行研究では結び付けられていなかった各種史料を並置して解釈する作業により、従来は「困窮者を収容し、入所中の衣食住を保障しつつ、就労訓練を施した」という概略の説明にとどまっていた小屋での生活の具体的な様相を明らかにしえた。それは、例えば、小屋の入所者が施設外に出かけた際の門限を破って一定の時間が経てば脱走と看做されたこと、外出中に城下の者とトラブルを起こさないように行動を慎むよう言い渡されていたこと、面会に来た親族は、過去に何度か面会実績を積んだ者であれば小屋に宿泊できたこと、火事の際の避難マニュアルといった入所者の生活そのものに密着した内容から、小屋の運営体制や、それを構成する藩吏らの勤務シフト、創設時に支弁された経費を入所者の所作銀によって藩へ返還したこと、在方からの入所申請の仕方など、小屋に対する藩の姿勢を読み取れる内容もある。 これらは、細やかな事柄ではあるが、加賀藩の「非人」の在り方を確認するうえで欠くべからざる基本調査である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は金沢市立近世史料館や、近隣の公文書館、図書館が収蔵する史料の確認を主軸に想定していたが、年度中に個人から「加賀金沢藩御法令及領内記録」という標題の史料を譲り受けた。近世史料館の収蔵目録を同標題で検索をしたところヒットがなく、内容の突き合わせを行って当該文献の性質を確認する作業を行っていたため、当初の研究計画の「支藩の調査」が遅れている。 しかし、当該文献も将来的には研究に資するものであり、長期的な視野に立てば必要な調査であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は「成果の公表の年」と位置付けていた通り、6月の法制史学会での大会報告を予定しているほか、8月には医療・福祉問題研究会の大会に参加し、異分野との交流を行う予定である。 前者は申請者にとってのメインの学会であり、2012年大会では「加賀藩救恤考」のタイトルで寛文・元禄飢饉当時の困窮者扶助制度に関する報告を行った。今回のテーマは、その際に質問を受けた(そして当時は具体的な事例を解答できなかった)内容であり、活発な質疑を得られることを期待している。 後者は、2015年夏の例会で「福祉の始まる前」のタイトルで報告を行った研究会である。その折にも、互いに目新しく、質疑応答やその後の時間にも活発な交流ができた。
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