研究課題/領域番号 |
16K21063
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
木曽 久美子 福井大学, テニュアトラック推進本部, 助教 (00714007)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知地図 / 記号過程 / スケッチマップ / 共起 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
将来の建築・都市空間の変化が、外在化される認知地図にどのような変化を与えうるのかを、外在化された認知地図であるスケッチマップの調査結果に基づいて確率値によって推定する方法を構築し、その推定結果を可視化するシステムの構築を目的として研究を展開し、下記の結果を得た。 まず、一つのスケッチマップ上に複数の要素が描画されることをその一連の要素が「共起する」と位置づけ、共起する2つの建築記号の関係性を記号論に基づいてモデル化し、様々な記号的関係性を持つ2つの建築記号の共起確率の評価方法を提示した。この時さらに共起を基軸とした多義性を記号論の理論的枠組みのもとに明らかにした。 そして、構築した方法を用いて、ロジスティック回帰分析によってスケッチマップの構成要素群の共起確率を評価した。 次に、評価結果に基づいて、建築・都市空間における特定のデザイン変更が、外在化される認知地図の構成要素群の共起性にどのような変化を与えうるのかを予測するシステムを構築し、シミュレータ空間上で分析対象とする建築記号の周辺の建築記号群の共起確率を推定し、その地図上での分布状況を描画するだけでなく、建築記号群のいずれの性質によって共起確率値が求められるのかについての分布状況も表示することを可能にした。 実際にシミュレーションを行い、その結果を用いて階層的クラスタ分析を用いて共起確率値に最も強く影響を与えた独立変数の種類を基準として建築記号を分類し、その地図上での分布状況を確認した。それによって建築記号間のどのような記号的関係性における、いずれの性質の変化によって共起確率の地図上の分布がどのように変化するのかについて考察した。具体的には、調査対象であるキャンパスごとに、特定の建築物の性質を変化させるシミュレーションを行い、変化させた結果としてどのような記号として共起するようになったのかをこれまでの結果を踏まえ把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
記号論の観点から「共起」の概念を独自に着想し、本年度はさらに同じ建築記号が様々な意味を持つという多義性の観点を導入して建築記号間の共起性の分析を行ったことで、研究が飛躍的に発展した。 具体的には、アメリカの記号学者C.S.Peirce の記号論における「記号と対象との関係性」に基づく記号分類を用いて本研究で対象とする「共起」の概念を明確に定式化し、その上で共起を基軸とした多義性を記号論の理論的枠組みのもとに明らかにした。これによって本研究で提示する共起性の定量的な評価方法が、建築記号の多義性の共起という概念を基軸とした評価についての一つの方法であることを示すことができた。 本研究で提示される方法を用いれば、建築物を新たにデザインする場合に、そのデザインが周辺の既存建築物群との共起性にどのような変化を与えうるのかについてある程度予測することができる。こうした将来の地域のスケッチマップのあり方を想定したデザインは、建築物の意味やその解釈における人間と環境との関係性を考慮した、デザイン対象となる建築物と周辺の建築物群との相互関係のデザインに他ならない。このように本研究による成果は、建築・都市空間の意味やその解釈を基軸とした人間-環境系のデザインの一つの方向性を示唆しているといえる。 こうして、本年度の成果は多義性の概念を導入するだけでなく、次年度に予定していた「共起確率評価シミュレータの構築」の一部にまで着手することができており、この点においては本年度の進捗状況は当初の計画以上に進展しているということができる。 一方で、関係性のデザインによる人間及び建築・都市空間への影響力の定量化、及びその可視化を行うための汎用的な方法を提示するための、研究成果の様々な対象への汎用性についての検討は未だ不十分であり、次年度以降で検討を重ねていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
(1)新たな調査とGISによるデータベース構築 これまでに構築した調査方法に従って、新たな調査地において人間行動のアンケート調査及びスケッチマップの描画調査を行う。そしてGISに、被験者がスケッチマップ上に描画した要素の地理空間情報と各要素の描画に関する情報(どの被験者が描画したか、その被験者のアンケート調査の回答内容等)とを関連付けたデータベースを構築する。 また、関係者との調整の関係上、新たな調査を行うことが難しくなった場合には、これまでの調査で得ることができたフランスのフランシュ=コンテ大学でのスケッチマップの調査結果データを用いて研究を展開することを検討する。 (2)前年度までに構築したシミュレータの改良・他対象への研究の汎用性の検討 前年度までに構築した方法によって共起確率を評価し、そして評価の際に得られた確率推定モデルを、本年度構築したシミュレータへ導入することによって、シミュレータを改良する。本年度における結果と比較検討しながらデザインのシミュレーションを次年度も再び行い、研究成果のデザインへの汎用性を確認し、必要に応じシミュレータを修正する。 また同時に、他対象におけるシミュレーション結果を考察することを通して、これまでの研究で提示してきた共起性の評価方法を、他の様々な建築・都市空間を対象としてどのように適用していくのかについての検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究成果として、2017年3月までに採用が決定し発行が4月となった論文が1編と、2017年3月に提出完了した論文が1編(掲載未定)あり、当該論文2編分の投稿費用等を本年度の研究費によって支払うことを予定したため。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年4月支払:日本建築学会計画系論文集1編分の登載料+超過頁掲載料+論文別刷代 2017年9月支払予定:日本建築学会計画系論文集1編分の登載料+超過頁掲載料+論文別刷代
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