近年,地球・天文観測のミッションにおいて,特定領域の複数目標点を短時間で観測する多点指向制御など,宇宙機の姿勢を高速かつ大角度で変更するミッションの需要が高まっている.このようなミッションの実現においては,高トルクを出力することができるコントロール・モーメント・ジャイロ(CMG)を姿勢制御用アクチュエータに用いることが考えられる.しかし,CMGにはある回転軸方向にトルクを発生できない「特異点」と呼ばれるジンバル角の組が存在するため,特異点回避を考慮した制御系設計が必須である. 本研究では,CMGを用いた宇宙機の高速かつ大角度姿勢変更に対して,CMGの特異点回避を考慮した姿勢制御手法の構築,および実証実験による制御手法の実装可能性についての検証を目的としている.今年度は以下の研究課題について取り組んだ. (1)前年度までに申請者らが提案した非線形モデル予測制御(NMPC)では制御系の安定性の保証が解決すべき重要な問題点であった.そこで,指令入力生成とジンバル駆動則の設計を分離し,指令入力生成に申請者らが提案した安定化モデル予測制御手法を適用する手法を提案した.制御系の安定性を考慮することで,前年度までの提案手法よりも制御性能が改善できることを数値シミュレーションにより確認した.また,高速・大角度姿勢変更のミッションでは,できるだけ短時間で目標角度に到達することが望ましいため,最短時間制御問題への拡張も行った.具体的には,先と同様に指令入力生成とジンバル駆動則の設計を分離し,指令入力生成に最短時間制御を適用し,ジンバル駆動則に特異点回避を考慮した最適化問題を適用した.数値シミュレーションにより,CMGの特異点を回避しつつ最短時間制御(bang-bang制御)に近い応答が得られた. (2)宇宙機本体を模擬する構造物の選定と購入,CMGシステムの設計・製作・組立てを行った.
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