研究課題/領域番号 |
16K21071
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
友田 義行 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (40516803)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 映画 / 映像 / 前衛芸術 / アヴァンギャルド / 比較文学 / フィルム・アーカイブ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の戦後アヴァンギャルド芸術運動において、文学・映画・戯曲等のジャンルを横断した実践がどのように展開されたかを、芸術家たちの協働とその影響から究明することにある。特に「前衛芸術の震源地」と呼ばれた〈草月アートセンター〉周辺の芸術家たちに照準し、彼らの協働がどのような表現を生み出し、思想・社会・科学を表象したかを追究する。また、同センターを軸にして展開された協働活動が解体した後の動向も視野に入れ、戦後前衛芸術運動がその後の表現活動にどのような影響を及ぼしていったかを、安部公房・勅使河原宏の創作を中心に考察するものである。 2018年度は、一般財団法人草月会資料室で、主に1950~60年代の資料調査を行った。雑誌『SAC』『現代芸術』『季刊フィルム』等のバックナンバーを通覧するとともに、草月アートセンターでの講演や演奏の記録を視聴した。そして安部公房や勅使河原宏らの活動を、周辺の芸術家との協働にも視野を広めて再検証した。その結果、特に刀根康尚や一柳慧ら音楽家たちの創作と、映画や美術といった他ジャンルとの共鳴関係が見出された。 また、勅使河原宏が撮影した草間彌生のパフォーマンス・フィルムをデジタル化し、視聴・分析できる状態にした(草月会の協力およびIMAGICALab.からの技術提供を受けた)。その結果、勅使河原宏監督が表現者、特に前衛芸術家を一貫してモチーフにしていたことが明瞭となった。 勅使河原宏の新資料の意義や、安部公房の初期短編を原拠との比較から考察した研究発表を、諸学会で行った。また、安部公房と勅使河原宏が協働で制作した映画『1日240時間』について、デジタル化の経緯と作品分析を行った論考を、単行本収載の論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主に一般財団法人草月会資料室で調査を行い、『草月』『現代芸術』『SAC』をはじめとした芸術雑誌や、映画企画書を含めた資料の検討を行った。その際、これまで取り組んできた安部公房と勅使河原宏の協働を軸に据えつつ、彼らの周囲で発生していた様々な形での協働に注目した。その結果、従来の研究では触れられなかった未完のプロジェクトを発見することができた。たとえば、勅使河原宏と土本典昭との共同台本『われらの時代』のほか、草間彌生を撮影したラッシュ・フィルムなど、これまでの文学史・映画史・美術史にも見られなかった協働の具体例を探り当てることができた。これらについて制作背景を明らかにし、作品の表象分析や芸術的意義の考察を行い、論文にまとめた(2019年度刊行予定の学術書に収載)。 また、草月会資料室担当者およびフィルム担当者に聞き取りを行いながら、草月会所蔵資料の意義について考察を進めた。特に、勅使河原宏が監督・撮影・企画に携わった映画と、それらと関わりの深い文学(者)との関連について調査・考察を進めている。中でも本研究課題にとって資料的価値が高いと判断される『草間彌生』(草間彌生のパフォーマンスを撮影したもの)を、IMAGICALab.の技術提供を受けてデジタル化およびクリーニングすることができた。台本や企画書についても、1950~70年代の資料を順次閲覧し、より詳細な分析のためにデジタルデータでの撮影・保存を進めている。 以上のようにおおむね計画通りに研究を進め、新たに発見した『1日240時間』をデジタル化した経緯や作品分析の考察を論文にまとめて発表したほか、同じく新資料の『われらの時代』や『草間彌生』についても考察を加え、口頭発表や論文にまとめることができた。最終年度も研究成果を積極的に発信するとともに、次の展開として、草月を軸にした勅使河原宏監督の総合的研究を目指していく。
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今後の研究の推進方策 |
一般財団法人草月会所蔵の雑誌や企画書等の資料を調査し、既刊書籍・先行研究とあわせて、草月アートセンターにおける芸術家たちの活動を相対的に整理・把握することを続けていく。特に、複数の芸術家によるジャンルを超えたコラボレーションの抽出に注力し、特定の芸術家同士の継続的な協働や、従来注目されてこなかった組み合わせをさらに探っていく予定である。 また、同じく草月会資料室所蔵の貴重資料についても調査と分析を進めていく。特に、勅使河原宏の活動に関連する台本や企画書を精査し、未発表のものも含めてその意義を明らかにすることを通して、従来の文学史・映画史・美術史の空白を埋めていきたい。 さらに、草月会所蔵のフィルムやオープン・リールから研究資源として価値の高いものをピックアップし、フィルム専門会社IMAGICALab.の技術者とも協力して、クリーニングおよびデジタル化を進める。閲覧可能になった作品から順次内容を吟味し、本研究での考察に反映させていく。最終年度となる2019年度は、草月会で開催された講演やパフォーマンスのフィルムおよびオープン・リールを、視聴可能な状態にする予定である。 研究成果は国内の研究会・学会・エキシビション・特別講義等で発表し、そこで得られた知見や批判を反映させてさらに考察を深め、研究ノートや論文にまとめて、学会誌・大学紀要・著書などで広く発信していく。
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