研究課題/領域番号 |
16K21072
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大橋 史隆 岐阜大学, 工学部, 助教 (20613087)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クラスレート / IV族 / 合成技術 |
研究実績の概要 |
SiおよびGeクラスレート膜の物性評価、デバイス作製を目指して膜の安定的な合成条件の探索を行った。SiおよびGeクラスレート膜は、出発材料であるSi基板もしくはサファイア基板上のGe膜をAr雰囲気中においてNa蒸気と反応させ、それぞれの基板上に前駆体膜を真空熱処理を行うことにより合成を行う。以下にそれぞれの合成条件の最適化について説明する。 Geクラスレート膜の合成については、より物性評価もしくはデバイス作製に適した透明基板であるサファイア基板上への合成を中心に行った。サファイア基板上への合成については、GeO2相の膜表面もしくは内部への混入が確認されていた。これは、物性評価およびデバイス作製において障害となると考えられる。GeO2については、合成後のX線回折法による経時変化の評価から、時間の系化に従い増加していることから、合成後において洗浄時に付着した水分とGeクラスレートが反応し、GeO2に変化したと考えられる。洗浄後に真空加熱乾燥処理(150℃, 1h,<10^-2 Pa)を行うことによりGeO2の生成抑止を確認した。 Siクラスレート膜の合成については、前駆体であるNaSi膜合成時のNa蒸気とSi基板の反応が不安定であり、アモルファス相の生成が問題であった。これらを解決する方法として、NaSi膜合成時の温度を580℃から700℃に変更するとともに、反応時間の最適化を行った。反応時間は降温速度を変化させて行った。降温速度が比較的遅い-20,-30℃/hの場合には、Na蒸気とSi基板が過度に反応し粉末状のSiクラスレートの合成を確認した。一報降温速度が比較的速い-50,-100℃/hの場合には安定的なSiクラスレート膜の合成を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H28年度は、膜の安定的な合成技術の確立が主な目的であった。Geクラスレート膜においては、GeO2などの不純物生成機構を明らかにするとともに、低減を行った。これらの結果から物性評価可能な膜が透明基板であるサファイア基板上への合成を可能にした。サファイア基板は、透明且つ絶縁物であるため、光学的評価、電気的評価に適していると考えられる。また、その結晶構造は半導体化が容易とされるII型であることから、H29年度の目標をある程度達成していると考えられる。すでに光学的物性評価については開始しているが、Geクラスレート膜の内包Naおよび表面の凹凸が問題点としてあげられる。今後これらを解決する新たな技術開発を行う必要がある。 Siクラスレート膜については、Si基板上への安定的な合成条件に関する知見を得た。また合成したSiクラスレート膜の結晶構造は半導体化が容易であるとされるII型であった。これらの知見はSi基板上のSiクラスレート膜の物性評価を可能にするとともに、今後の他の基板上もしくはSiGe合金クラスレート膜の合成において重要な知見となると考えられる。Siクラスレート膜の問題点としては、合成膜の幅が約100μm程度の帯状であり、大面積合成が困難であることが挙げられる。現在局所的に合成した膜に対して微小電極の成膜等により対応を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、I型II型クラスレートの単相合成およびクラック等の低減を目指して真空熱処理条件の最適化に主眼を置くとしてきた。しかしながら、本研究で合成した膜は内包Naの低減による半導体化が容易なII型クラスレート膜がほぼ単相にて合成されていることから、H29年度の目標かある程度達成していると考えられる。しかしながら、とりわけGeクラスレート膜については、半導体化に必要な内包Naの除去技術が確立していないため、今後真空熱処理条件の最適化、イオン液体を用いた処理を行うなどの技術の確立が必要である。一報Siクラスレート膜については、II型の単相合成とともにヨウ素と熱処理を行うことにより合成後に内包Naの低減が確認されている。今後ヨウ素との熱処理条件の最適化により、半導体として利用可能なSiクラスレート膜の合成を試みる。 クラックへについては、当初の予定通り膜厚、前駆体の真空熱処理条件の最適化を行うことにより対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を他の予算により負担したため、予定よりも少なく消費した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究方針の転換により新たにNa低減用の物品が必要なため、その費用に充てる。
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