Siクラスレート膜の合成において、NaとSiをより安定的に反応させるめ出発材料をNa小片単体から、Na小片およびNaH粉末の混合物に変更した。これにより、膜状合成の再現性が向上した。これは、クラスレート膜前駆体であるZintl相の形成時において還元雰囲気になり、前駆体膜の酸化を防ぐ効果があったと考えられる。またNaの出発材料を変更することにより、前駆体合成時の温度を600℃から550℃程度まで低温化可能なことを確認した。これは、多様な基板上に合成するにあたり、利用可能な基板の種類を広げることにつながると考えられる。これらの知見をもとにサファイア基板上においてSiクラスレート膜の合成を試みたが、一部クラスレートに起因するラマンスペクトルは得られたものの、局所的であり、今後広い面積における合成技術の確立が必要であると考えられる。 サファイア基板上に合成したGeクラスレートについては、UV-vis-IR領域における透過スペクトル測定を行った。その結果光子エネルギーが0.5eV以下において、フリーキャリアに起因すると考えられる吸収を確認した。また、膜厚、Na内包量が減少するに従い、その吸収強度が低下することも確認した。これは、Geクラスレートに内包されるNaがイオン化し、キャリアとして電子をGeのフレームワークに供給していると考えられる。 サファイア基板上に合成したGeクラスレートについては、さらにAg電極を形成し、オーミック接合を形成することも確認した。また、Van der Pauw法およびHall効果測定により抵抗率、PN判定、移動度、キャリア密度測定を行った。Na内包量の低下に従い、キャリア密度が低下したことから、クラスレートに内包されるNaのイオン化により、電子がキャリアとして供給されていると考えられるが、さらなる詳細な解析が必要であると考えられる。
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