本研究では、河川地形を構成する土砂の粒径の幅が広い石礫床河川における河床変動計算を精度を向上するとともに、河床環境に依存する魚類等の物理生息環境を表現可能な数値シミュレーションモデルを開発した。河川シミュレーションソフトIRIC Nays2Dソルバー(数値計算モデル)を改良し、流水抵抗評価及び河床空隙率評価モデルを実装した。これらの改良により、混合粒径条件下における河床変動、河床表層の分級現象の再現性を大幅に向上させることができた。 モデルの改良にあたり、石礫床上を小さい相対水深で流れる流れの構造、とりわけ粗度層の特性に着目した検討を行い、さらに、流れの構造を踏まえて魚類の生息場の量を遊泳可能空間として定義する手法を提案した。また、大きな石礫粒子間を流れる砂粒子の運動等についても検討を実施した。これらの成果により、石礫床河川の河床環境を構成する流れ・土砂及び生息場評価についてより深い理解を得ることができたが、数値計算モデルに実装するに至ってはいない。 最終年度には、現地調査を重ねてきた木曽川水系長良川を対象に、石礫床河川区間の早瀬を産卵床とするアユに着目し、本研究で開発したモデルにより、アユ産卵場の空間分布の評価を試行した。長良川現地では扇状地の中央から扇端部にかけて多くの産卵場が分布していることが既存資料及び漁協への聞き取りにより把握されている。モデルの解析結果は、扇状地全体の河床材料の粒度分布を一様に与えた場合、扇頂部から扇端部にかけて産卵場としての適合度が高く評価されたが、扇状地に縦断的に河床材料粒度分布を実態に合わせて設定可能なようにモデルを拡張した結果、アユ産卵場の分布を良く表現することができた。 以上のように、本研究は、石礫床河川の河床変動現象、とりわけ分級現象を精度良く計算した上で、河床の物理環境に依拠した生物生息場の評価にも実用的な数値計算モデルを実現できた。
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